平成29年度は以下の2つの課題に取り組んだ。 1.ノロウイルスの不顕性感染者の生物学的役割の解明 総感染者に占める不顕性感染者の感染性(ノロウイルス感染拡大にどれほど貢献するか)の解明に取り組んだ。本年度はノロウイルス感染症の集団食中毒事例データを用いた、不顕性感染者割合の推定研究の成果が出版された。また初年度に実施したノロウイルス様疾患(NLI: Norovirus-like-illness)の後ろ向き疫学調査の結果を使用して、不顕性感染者と顕性感染者の相対的な感染性の推定問題に取り組み、コミュニティ感染を考慮しない確率論的感染モデルを実装して現在解析中である。各家庭における構成員の感染履歴データを時系列とともに再構築するよう、状態空間モデルを利用している。当該研究は平成30年度中に出版する予定である。 2.宿主集団の異質性をはじめとした、多様な情報を含む数理モデルへのブラッシュアップ ヒト集団の年齢構造を考慮したモデルを発展させることを念頭におき、年齢群ごとの感染性および感受性の異質性を明らかにすべく、家庭内感染の疫学調査データの解析を行った。15歳以下の若年層においてNLIの感受性と感染性の双方が高いことが明らかとなり、当年齢層への感染対策が重要と考えられた。一方で、これまで感染動態に深く関与することが示唆されてきた60歳以上の老齢層については、その感受性と感染性が必ずしも高くないことが明らかになった。ただし本結果はNLIが対象であるというリミテーションがあるため、今後はウイルス検出情報も加味し、ノロウイルス感染の蓋然性をより高める必要性がある。この研究成果は、現在修正投稿中であり、平成30年度中の出版が見込まれる。
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