本研究は、公務員の対外的賠償責任を画一的に否定してきた戦後の我が国の判例及び通説への疑問を端緒として、とりわけ通説(否定説)が提示してきた根拠論を再検討ないし整理し直し、そしてまた逆に古くから一貫して当該賠償責任を肯定する余地を認めてきたフランス法を比較法研究の対象とすることにより、公務員の対外的賠償責任に関する議論のあり方を試論的に提示することを目指すものである。 最終年度の平成29年度は、昨年度行ったフランス法に関する研究を日本法の議論に架橋する作業を行った。具体的には、フランス法の議論を踏まえた上で、①軽過失(全面的肯定説)、②重過失(制限的肯定説)、③故意(加重制限的肯定説)、④私的な職権濫用行為(職権濫用限定説)という四つの類型について、そこで問題となりうる具体的な加害行為ないし裁判例を例示しつつ、また各類型に対応する学説を参照しつつ分析を行うことにより、各学説の意義や課題、そこで留意すべき事項等を明らかにした。 そして、以上の研究成果を、中央大学の公法系勉強会及び金沢大学の北陸公法判例研究会において報告した。これらの研究会には、憲法や租税法などの異なる法分野の研究者、さらには弁護士や公務員といった実務家も参加しており、多角的な視点からレビューを得ることができた。かくして得られたレビューに基づき一定の修正を加えた上で、これを「公務員の対外的賠償責任に関する試論的考察」と題する論文としてまとめ、『自治研究』に五回の連載(93巻9号、93巻11号、94巻1号、94巻2号、94巻4号)により公表した。
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