研究実績の概要 |
平成28年度は、さまざまなヘテロ金属が導入しやすい大細孔ゼオライトの*BEA型にゼオライトの結晶構造を絞り、Baeyer-Villiger酸化に高活性・高選択性を示すヘテロ金属(中心金属)を選定した。ヘテロ金属としてTi, Zn, Zr, Sn, Hfを導入したゼオライト(M-Beta, Mはヘテロ金属の種類)をフッ化物法によって水熱合成した。これらを用いて2-adamantanoneのBaeyer-Villiger酸化を行ったところ、Sn-Betaが最も高い触媒活性を示し、Hf-Betaも触媒活性を示した。しかし、その他の金属を導入したゼオライトには触媒活性がまったく見られなかった。Sn-およびHf-Betaはいずれも対応するラクトンのみを生成物として与え、高い選択性を有していることがわかった。 Sn-Beta, Hf-Betaに絞ってフッ化物法以外のポスト合成法の開発を試みた。脱AlしたBetaを原体に用いてさまざまな合成法を検討した結果、Sn-BetaではSnCl4と固相混練によって合成したときにSn原子導入量をSi/Sn = 40程度まで増加でき、Sn原子量にしたがって触媒活性が向上することを見出した。一方、Hf-Betaでは、HfCl4水溶液中で原体を加熱攪拌する方法がよいことがわかった。 これらポスト法によって合成したサンプルはいずれもフッ化物法によって水熱合成したサンプルに比べて低活性であった。水蒸気吸着測定を行ったところ、ポスト合成法によって調製したサンプルは、水熱合成法によって合成したサンプルと比べて低相対圧において吸着量が多く、反応中にヘテロ金属に水分子が強く吸着し、反応を阻害していることが示唆された。これらの理由から、フッ化物法による合成が最適であると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度、Ti, Zr, Sn, Hf原子 を含有したBetaゼオライトの、2-adamantanoneのBaeyer-Villiger酸化におけるルイス酸触媒性能を評価したところ、Sn, Hf原子を含有するゼオライトが比較的高い触媒活性、ラクトン選択性を示した。そこで今年度は、これらのゼオライトを用いて、FructoseのBaeyer-Villiger酸化および加水分解によるC4構造の合成を試みる。その際、酸化剤として過酸化水素、過安息香酸、アルキルヒドロペルオキシドなどの酸化剤を検討し、最適な酸化剤を選定する。Fructoseは有機溶媒には溶けづらいが、過酸化水素以外の酸化剤は有機溶媒に溶けやすいので、極性有機溶媒と水の混合溶媒の組み合わせ、組成についても合わせて検討する。 ゼオライトの細孔内にアルカリ金属を導入して塩基点を構築する。シリカ骨格中で孤立したSnなどの金属原子のもつSi-O-Sn結合は一部が加水分解され、Si-OH基が形成されていることがわかっている。このSi-OH基をアルカリ金属イオンで交換し、近傍の酸素原子上に塩基性を付与する。アルカリ金属イオンの種類、導入量、導入方法を最適化する。調製したゼオライト触媒を用いてFructoseの分解反応を実施し、塩基性付与による触媒性能の変化を調べる。特に、Baeyer-Villiger酸化によって生成したエステルの加水分解を促進する効果が塩基点にあるかを中心に検討する。 このようにして調製した、ルイス酸点と塩基点の両方を有したゼオライトを用いてFructoseから合成するC4構造の逐次的な変換によるモノマーの合成を目指す。C4構造として四炭糖、例えばErythroseを合成し、その脱水反応と分子内ヒドリド移行によるエステル基の構築を計画している。
|