研究課題
インフルエンザウイルスはウイルスタンパク質としてレクチンとグリコシダーゼを持つ、糖と密接に関連した病原体である。本研究では、インフルエンザウイルスと糖質の直接的な相互作用に加えて、感染に対する宿主免疫応答としての糖質の発現変動を解析することで、インフルエンザウイルスの哺乳動物に対する感染性と病原性を規定する因子が解明できるのではないかと考え、実験を進めている。平成28年度はインフルエンザウイルスと糖質の直接的相互作用の解析として、H1から16まで全てのHA亜型のHAを発現するためのプラスミドベクターの準備が完了した。加えてこれらの変異体を作出した。これらの実験は平成29年度に計画をしていた内容だが、平成28年度に前倒して実施した。今後これらのプラスミドベクターを用いて組換えHAを作出し、その糖結合特異性を評価する予定である。またウイルスのシアロ糖加水分解における基質特性の解析については、過去の報告に従いAmplex Red試薬を用いた方法の樹立に取り組んだが、解析に十分な感度と特異度が得られず代替法の検討が必要である。ウイルス感染に伴う宿主応答としての糖質の変動解析については、インフルエンザウイルス感染マウスの肺におけるシアル酸転移酵素遺伝子の発現をリアルタイムPCR法で解析した。マウスに対して病原性の低いインフルエンザウイルスを接種した際に、わずかにα2,6シアル酸転移酵素遺伝子の発現亢進が認められた。今後、他のウイルス株でも同様の結果が得られるか精査する予定である。
3: やや遅れている
平成28年度から平成29年度にかけて研究代表者の所属機関が変更になり、それに伴って研究計画がやや遅れている。インフルエンザウイルスと糖質の直接的相互作用の解析においては、HAの糖結合特異性の解析の一部を前倒して実施できたが、シアロ糖加水分解における基質特性の評価系を確立できなかった。ウイルス感染に伴う宿主応答としての糖質の変動解析については平成28年度中に実験条件等十分な検討ができたと考えている。一方で所属機関の変更に伴い、遺伝子組換え実験、動物実験、病原体使用実験等の新規申請が必要となったことから、今後実験の進捗に遅れが生じることが予想され、現在までの進捗状況としては「やや遅れている」を選択した。
所属機関の変更に伴って、特にマウスを用いた感染実験の予定が大幅に遅れる可能性がある。移動後の研究室では動物を用いた感染実験の実績がないため、速やかな系の確立のために所属機関外の共同利用施設を利用しこれを実施するべく、現在調整を進めている。糖鎖の発現解析については、当初予定していた免疫染色、質量分析法に加えて、レクチンマイクロアレイを導入し、より包括的な糖質解析を目指す。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
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