インフルエンザウイルスはウイルスタンパク質としてレクチンとグリコシダーゼを持つ、糖と密接に関連した病原体である。本研究では、インフルエンザウイルスと糖質の直接的な相互作用に加えて、感染に対する宿主免疫応答としての糖質の発現変動を解析することで、インフルエンザウイルスの哺乳動物に対する感染性と病原性を規定する因子が解明できるのではないかと考え、実験を進めている。 平成29年度は主としてウイルス感染に伴う宿主応答としての糖質の変動解析として、インフルエンザウイルスを接種した培養細胞における糖鎖の変化を、レクチンマイクロアレイを用いて解析した。犬腎臓由来細胞(MDCK細胞)にA/Aichi/2/1968 (H3N2)株を接種し、感染細胞ライセートを調製した。これをレクチンマイクロアレイ解析に供し、各レクチンとの反応性を感染細胞とMock接種細胞で比較した。その結果ウイルス感染によって多数のレクチンで反応性の変化が認められた。当初から予想されていたとおり、感染細胞では非感染細胞と比較してシアル酸認識レクチンの反応性が低く、反対にアシアロ糖認識レクチンの反応性が高かった。これは増殖に伴ってウイルスNAがシアル酸を糖鎖から遊離したためであると考えられる。今後、その他の変化について更に解析を進めるとともに、ウイルス株間の比較が必要であると考える。 当初計画していたin vivoでの影響の評価は異動後の機関において動物感染実験の系を期間中に再確立することができなかったため実施できなかった。
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