研究課題
乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクスは摂取することで、腸内環境の改善作用や抗アレルギー作用、抗腫瘍作用など宿主に対して有益な作用を発揮することが知られている。しかしながら、食生活や喫煙の有無、服薬状況などによって生じる腸内細菌叢の個人差や生活環境の多様性などの影響により、安定した治療効果を得ることは困難である。実際に、プロバイオティクス生菌体の投与による抗癌作用を証明した臨床研究はない。そこで、プロバイオティクスから特定の生理活性物質を単離し、必要量を投与することで安全性及び有効性が高い治療薬の開発につながると考え、乳酸菌から抗腫瘍活性物質フェリクロームを同定し(Konishi H, Nat Commun, 2016)、JNK-DDIT3経路を介して癌細胞にアポトーシスを誘導していることを明らかにした。このフェリクロームの抗腫瘍効果はin vitro試験において既存抗癌剤である5-FUやシスプラチンの効果を上回り、これらと併用することで相加効果が認められた。フェリクロームの有機化学合成経路の構築に成功し、この有機合成経路をベースに15種類のフェリクローム異性体を取得した。これらの誘導体のうち、9種類はフェリクロームと同等以上の抗腫瘍効果を発揮したが、6種類は抗腫瘍活性が減弱した。これらの研究成果からフェリクロームが抗腫瘍活性を発揮するために必須の環状構造および枝構造を明らかにした。また、フェリクロームを癌細胞移植モデルで薬効が認められた10倍量を連日マウス腹腔内および尾静脈経路より投与しても死亡個体は認められず、血液検査値(肝機能障害および血清鉄量)にも変化を及ぼさなかった。本研究成果により、乳酸菌由来フェリクロームは効果および安全性に極めて優れた新規抗癌剤シーズとして有望であることが明らかとなった。
29年度が最終年度であるため、記入しない。
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