3世代にわたる複合型下垂体機能低下症家系(成長ホルモン(GH)分泌不全、プロラクチン(PRL)分泌不全あるいは甲状腺ホルモン刺激ホルモン分泌不全)に、PIT1のアイソフォームPIT1βに認めた変異PIT1β-T152Gの病的意義を解明した。 PIT1β-T152Gの標的遺伝子の転写活性に与える影響を非下垂体培養細胞(HeLaおよびCOS7細胞)および下垂体培養細胞(GH3細胞)を用い、ラットGHおよびPRLプロモーターを用いたルシフェラーゼアッセイで検討した。HeLaおよびCOS7細胞においては、PIT1βおよびPIT1β-T152GはPIT1-αに比べ有意に転写活性能は低く、PIT1αに対する優性阻害効果は示さなかった。PIT1βおよび変異PIT-1βとも用量依存性に転写活性を上昇させ、PIT1β-T152GはPIT-1βに比べ、有意に転写活性能は高い結果であった。GH3細胞においては、内因性PIT1に対しては、PIT1βおよびPIT1β-T152Gとも優性阻害効果を有し、効果は同等であった。 細胞内で変異PIT1βT152GがPIT1αおよびPIT1βの転写に及ぼす影響をExon trapping vector を用いて野生型PIT1β、あるいは変異PIT1β-T152Gを導入した変異型コンストラクトを作成し検討した。その結果、野生型では、PIT1αが主たる転写物であり、PIT-1βも検出された。一方、変異型では、PIT1αは検出されず、PIT1β-T152Gのみが検出された。 以上の結果から、変異型PIT1β-T152Gは、PIT1β-T152Gの転写を促進しPIT1αの転写が抑制することで、転写活性の減弱したPIT1β-T152G発現を増加し、かつそれが内因性PIT1の転写活性を抑制するというメカニズムにより、複合型下垂体機能低下症の病態を惹起していることが示唆された。
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