研究課題
本研究課題では、考古学への定量的手法、とくに文化進化の研究手法の導入を目的として、弥生時代前期の土器(遠賀川式土器)をおもな対象として、(A) シミュレーションによる実データからの文化伝達過程の推定、(B)解析機能を組み込んだデータベースの構築を行っている。(A)では、韓半島および日本列島西部、とくに北部九州を対象として解析をおこなった。幾何学的形態測定学の手法を用いて土器の輪郭形状を定量化した後、多変量解析を行った。その結果、土器形状がゆるくではあるが地域ごとにクラスターをつくる傾向があり、隣接地域の時は形状も近い傾向がみられた。こうした解析をおこなった後、得られた特徴量を形質値とみなし、シミュレーションにより文化伝達プロセスの推定をおこなった。先行研究のモデルをもとに、形質値が量的な場合の文化進化モデルを構築した後、近似ベイズ計算によってモデルのパラメータ推定をおこなった。その結果、形状に定向的な文化進化が起こった可能性が示唆された。(B)では、(A)の解析で対象とした土器のデータベースを構築した。また、クラスタリング、主成分分析といった簡単な解析機能を備えており、解析対象の土器と解析手法をブラウザ上で選択するだけで使用できるなど、直感的に操作できることを目指し作成している。構築したデータベースを数人の考古学者に試用してもらっており、インターフェースやデータの出力方法などについてフィードバックを受けた。
2: おおむね順調に進展している
文化伝達プロセスの推定についても、データベースの構築についても、今後調整は必要なものの、基礎的な部分の構築には成功している。その一方で、シミュレーションでは時間差と地域差が分離しきれていないこと、データベースでは試用の結果インターフェースの調整などの課題がある。
現在のシミュレーションは空間構造を考慮していないため、空間構造を考慮したモデリングや、ごく狭い地域での推定を行う。現在使用しているものと異なるデータでも推定を行い、モデルの頑健性を検証するとともに、文化伝達プロセスの多様性についても検討する。データベース構築については、フィードバックを受けたインターフェースの修正や機能の追加を行う。また、現在、解析に時間がかかってしまっているため、ストレスなく使用できるように高速化に取り組む。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Letters on Evolutionary and Behavioral Science
巻: 8 ページ: 8-11
10.5178/lebs.2017.55