粉体は工学や地学など多くの分野で対象とされ,その集団としてのダイナミクスはガラスやサスペンションなどと共に、現在の非平衡統計力学の重要なテーマである.特に,非弾性相互作用によるエネルギー散逸や表面に働く摩擦など,粉体固有の性質はマクロな輸送現象や力学特性の予測を困難にしている.例えば,粉体のレオロジーは密度に強く依存し,ある密度以上では,粉体同士の接触力がマクロな力学応答を支配し,ストレスが強い非線形性を示す降伏状態に陥る(ジャミング転移).また,粉体の降伏現象は亀裂や破壊を伴うものではなく,離散的な粉体が非アフィン的に再配置する事が主な原因である. この様な粉体の複雑な振舞いを微視的に理解するため,分子動力学法による数値計算を用いて,せん断変形下で降伏する粉体の非ファイン速度(平均流周りの速度ゆらぎ)の統計的性質を調べた.そこで,非アフィン速度の集団的な振舞いや渦構造が観測され,降伏状態において強い空間相関を示している事が解った.さらに,エネルギースペクトルが波数に対してべき減衰を示し,ストレスの強い非線形性の裏にはミクロな乱流構造が潜んでいることを見出した. 粉体の密度が高く,外場によって流れる場合は,粉体間の接触力が系全体の力学特性に大きく寄与し,粉体気体とは異なるレオロジー特性を示す.この様な高密状態では粉体同士が強く相関するため,従来の運動論は成立せず,現在でも微視的理論の確立に向けた研究が行われている.一方,分子動力学法によって高密度粉体のミクロな運動を直接調べることもでき,降伏応力の発生と微視的構造の関係解明は重要なテーマである.特に,剪断流の場合に限ると,各々の粉体の速度から平均流を差し引いた「非アフィン速度」が非常に複雑な空間構造を持つことが普遍的に知られ,本研究では非アフィン速度の乱流的な振る舞いとレオロジー特性がどう関わるか解明した.
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