本年度は、昨年度に引き続き、ナノスケールでの化学反応が亀裂の生成に与える影響を解明可能なシミュレータの拡張および燃料電池材料における亀裂生成プロセスの解明に関する研究を行った。固体酸化物形燃料電池の燃料極はNiとセラミックスのサーメット材料がよく使われているが、高温作動中でセラミックスに亀裂が発生する問題がある。また、燃料中の水蒸気の量によりその亀裂の発生のしやすさが異なることが実験で示されている。電極材料の破壊に関する研究は多く行われているが、破壊メカニズムを原子、分子レベルで解析しているものは少ない。そこで、前年度で開発したナノスケールでの化学反応が亀裂の生成に与える影響を解明可能なシミュレータを活用し、水蒸気が電極材料におけるセラッミクスであるセリアの亀裂生成に与える影響を検討した。その結果、引張り計算において、水蒸気中の水分子がセリア表面上で吸着解離した。そして、表面のセリウム原子周りの結合次数がこの反応により弱まり、真空中の場合と比べて、結合が切断しやすくなり、亀裂生成しやすいことが明らかにした。そして、セラミックス内部の応力分布を調べた結果、酸素空孔がある箇所に応力集中が発生しやすいことを明らかにした。以上より、開発したシミュレータを用いて、ナノスケールでの化学反応と応力分布、亀裂生成との関係を明らかにした。
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