研究実績の概要 |
中性子検出器用シンチレータとして、有機結晶の研究開発を行った。将来の中性子利用として数ナノ秒以下の速い蛍光寿命が求められている。有機結晶では、数ナノ秒以下の蛍光寿命を有するものがあり、高速応答が実現可能である。一方、既存の有機シンチレータは低融点で温度上昇による劣化が起こりうる。そこで既存の有機シンチレータより高融点で、高速応答・高発光量な有機結晶の開発を行った。 昨年度に引き続き、育成候補材料である(ア)ベンゼン環を有するClHmOnで表現される物質もしくはその一部置換分子(l,m,nは数字)、(イ)ClHmNnなどを含むビス(トリアジニルアミノ)スチルベンジスルホン酸誘導体、(ウ)上記の母材に発光賦活剤をつかさどるものを添加したものを育成した。具体的には、母結晶としてスチルベン、安息香酸、安息香酸Li、安息香酸Na、p-テルフェニル、サリチル酸等を育成した。また、これらの母結晶にBisMSB、POPOP、PPO等の発光賦活剤を添加したものも併せて育成した。これらの育成手法としては、前年度設計したるつぼを用いたブリッジマン法を用いた。特に有望な特性を示したp-テルフェニルについては、検出器開発用途に大口径化を行い、クラックフリーかつ気泡を含まない1インチ径のバルク結晶の育成に成功した。 これらの育成結晶については、フーリエ変換赤外分光光度計、粉末X線回折による相同定、格子定数の決定を行った。また、シンチレータ特性評価として、透過率、発光、励起波長、および蛍光寿命といったフォトルミネッセンス評価した。加えて、絶対量子収率装置にヒーターを装着し100℃までの温度依存性を測定し、100℃でも量子収率が劣化しないことがわかった。更に、京都大学複合原子力科学研究所にて、ガンマ線照射装置を利用し既存のプラスチックシンチレータとの放射線耐性測定を実施した。
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