平成28年度の半年間は、フィールドでの採集調査と、採集したクマムシ類についての分類学的研究を行った。フィールド調査は、研究開始時期が秋であったため、砂浜へのアプローチを阻む積雪を避けるため北日本の、宮城県松島湾、青森県、北海道道南の主に潮間帯で実施した。その結果、標的分類群3属(イソトゲクマムシ属、ハマクマムシ属、チカクマムシ属)を含む11種と予想を上回る種が得られた。そしてこのうち、イソトゲクマムシ属2未記載種とハマクマムシ属1未記載種については、それぞれ新種記載論文を準備中である(平成29年度投稿予定)。他にもハマクマムシ属は一見既知種と思われるものの、原記載では報告されていない形質が観察された種もあった。これについてはより詳細な分類学的検討が必要である。この他に、平成29年度の採集成果と合わせて行う予定の分子系統地理学的研究のために、今年度採集された標的分類群について分子データの蓄積を開始した。DNA抽出の際、イソトゲクマムシ属では外骨格を残すことに成功したものの、重要な分類形質が一部失われてしまうことが明らかになった。 上述の成果と平成29年度に得られる成果を合わせることで、北日本に分布する海産クマムシ類(特に標的と設定した採集の比較的容易な分類群)の分布パターンと遺伝的多様性を明らかにできる。そして分類群間の比較を通して、海産クマムシ類にとって、どのような要因が生物地理パターン形成に重要なのか、新しい知見をもたらすことが期待される。
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