研究課題
本研究課題「LC-MS/MSによる変性・修飾脂質の異性体解析法の構築と機能性の解明」では、従来解析が困難であった過酸化脂質(例:スクアレンヒドロペルオキシド)や糖化脂質(例:アマドリ型ホスファチジルエタノールアミン)といった特異な構造を有する変性・修飾脂質の高感度・高選択的なLC-MS/MS分析手法を構築する。具体的には、応募者がこれまで取り組んできた過酸化脂質の解析において極めて有効であった、アルカリ金属イオンを用いたLC-MS/MS分析法を応用展開する。本法の大きな特徴は、LC-MS/MS分析時にアルカリ金属イオンが存在することで、構造解析に有用なフラグメンテーションが生じ、フラグメントイオンを適切に選択することで高感度・高選択的なLC-MS/MS分析が可能となることである。この現象はすでに一部の過酸化脂質分子種(リン脂質ヒドロペルオキシド、脂肪酸ヒドロペルオキシド)において生じ、構造解析に非常に有用であることが明らかになっている。一方で、他の脂質分子種に関する有効性は未だ明らかでない点が多い。そこで本研究では、「アルカリ金属イオンを用いたLC-MS/MS分析法」をさらに進化・深化させ、これまで解析が困難であり、食品や生体における機能や活性に不明な点が多くある「特異な構造を有する脂質分子(例:過酸化脂質分子種や糖化脂質、プラズマローゲン、酸化ビタミンE、酸化カロテノイド)」の解析に臨み、これら脂質の機能解明を目的とした。
2: おおむね順調に進展している
「特異な構造を有する変性・修飾脂質の標品作製と高感度・高選択的な異性体解析法の構築」として、特に、糖化脂質とスクアレンヒドロペルオキシドの分析法を検討した。糖化脂質として分子種レベルでAmadori-PE(グルコース型PE、ラクトース型PE)の標品を作製した。アルカリ金属イオンを用いたMS/MS分析の結果、糖化部に特異的なプロダクトイオンが生じることを見出した。また、スクアレンヒドロペルオキシドの標品は光曝露によって生じる6種類の異性体を調製した。これらの標品を用いてMS/MS分析を検討した結果、アルカリ金属イオン存在下で、ヒドロペルオキシ基の結合位置ごとに特徴的なフラグメントイオンが生じることを見出し、スクアレンヒドロペルオキシドの位置異性体を高感度・高選択的に分析することを可能にした。以上より、特異な構造を有する変性・修飾脂質の質量分析におけるアルカリ金属イオンの有用性が示された。
平成29年度は引き続き平成28年度の研究内容を継続して行う。糖化脂質とスクアレンヒドロペルオキシドに関しては、「食品や生体における変性・修飾脂質の定量的解析」として種々の食品サンプルや生体サンプルの解析を目指す。具体的には平成28年度に見出した質量分析による高感度・高選択的な分析方法を高度化し、定量的な解析を可能にする。また、平成28年度において、特異な構造を有する変性・修飾脂質の質量分析におけるアルカリ金属イオンの有用性が確認できたため、「応用可能な脂質分子(プラズマローゲン、酸化ビタミンE、酸化カロテノイド)の探索と解析」として本法が応用可能な脂質分子を探索する。そして、最終年度として、食品や生体における種々の変性・修飾脂質の詳細な解析により、未だ明らかでなかったこれら分子の機能性や生理活性を明らかにし、ひいては食品劣化や機能性への関与、生体老化や疾患に与える影響を総括する。
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J. Oleo Sci.
巻: 66 ページ: 227-234
10.5650/jos.ess16159