慢性閉塞性肺疾患はタバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入暴露することで生じる肺の炎症性疾患である.気道上皮細胞の異常な組織再構築(リモデリング)がその病因に関与すると考えられており,新しい治療標的として注目されている.近年,気道上皮幹細胞の機能異常が上皮リモデリングに関与することが報告されているが,その分子機序は完全には解明されていない.申請者はマウス気道上皮の幹細胞とされている基底細胞にAxl受容体チロシンキナーゼが発現していることを発見し,基底細胞の活性化にAxlが重要な役割を果たすことを見出した.本研究の目的はCOPDの気道上皮リモデリングにおけるAxlキナーゼ経路の役割を明らかにすることである.
平成29年度は,恒常的にAxl キナーゼの活性化を認めるヒト気道上皮細胞株Beas2B細胞を用いて,上皮間葉移行 (EMT),炎症性メディエーター産生制御に関する研究を行った.Axlに対するsiRNAを3種類購入しノックダウン実験を行った.siRNA処置3日後にcell lysateを作成し抗Axl抗体を用いてウェスタンブロット法を行ったところ,コントロールsiRNAに比べて90%以上のAxlの発現低下を認め,ノックダウン効率は十分と考えられた. このノックダウンアッセイを用い,siRNA投与3日後の細胞よりtotal RNAを回収し,EMT,炎症性サイトカイン・ケモカインに関する分子の遺伝子発現を検討した.EMT関連分子の発現変動を認めなかったが,炎症性ケモカインのmRNA発現低下を認めた.これまでの先行研究でAxlは多くの癌細胞株においてEMTを制御していると報告があるが,非癌細胞においてAxlはEMTには関与せず,炎症制御に関与することが示唆された.
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