外傷や腫瘍の摘出,重度の顎堤吸収によって生じる広範囲に欠損した症例では,歯槽骨の欠損を補うために骨移植や骨補填材を用いた顎骨再建/再生が行われているが、欠損が広範囲に及ぶ場合はその治療効果は十分でない。そこで、iPS細胞は、歯槽骨の再生医療に用いる幹細胞源として期待が寄せられている。iPS細胞を臨床応用へ展開するためには、ヒトiPS細胞の骨芽細胞分化誘導条件をさらに検討する必要がある。 本研究課題の目的は、低酸素培養下でヒトiPS細胞の骨芽細胞分化を強力に促進する分化誘導方法を同定し、さらには広範囲の骨増生技術として臨床応用へ展開するための研究基盤を確立することである。 平成28年度は、低酸素環境がマウスiPS細胞に及ぼす影響を明らかにした。マウスiPS細胞を低酸素培養器内または低酸素模倣化合物を添加して骨芽細胞に分化誘導したところ、どちらの場合においてもマウスiPS細胞の骨芽細胞分化は促進された。 平成29年度は、低酸素模倣化合物を添加してヒトiPS細胞の骨芽細胞分化誘導を行った。その結果、低酸素模倣化合物は、ヒトiPS細胞の骨芽細胞分化を促進することが明らかとなった。さらに、不活化したヒトiPS細胞由来骨芽細胞をラット頭蓋骨欠損部に移植した。ヒトiPS細胞由来骨芽細胞は、ラット頭蓋骨の骨欠損部の治癒を部分的に促進した。今後、ヒトiPS細胞由来骨芽細胞の誘導プロトコールを改良することや低酸素培養条件を調整していくことで、自己由来細胞であるiPS細胞を用いた新たな骨再生材料となる可能性が示唆された。
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