本研究の目的は、がん治療の有害事象の新しい概念"経済的毒性(financial toxicity"に着目し、全国遺族調査によって、1.がん治療による患者および家族の経済的負担の内容とそれらの頻度・程度 2. がん患者の治療中の経済的負担ががん治療選択や日常生活に与えた影響と関連要因の2点について明らかにすることであった。1年目の調査(データ収集)から量的データの粗解析まで滞りなく実施し、2年目である今年度は質的データの解析と、結果を学術誌や学術集会で広く公表することを計画した。 質的データについては、当初予定していた対象データよりも、実際に収集できたデータが少なかったため、内容分析まではいたらず、記述内容のカテゴリー化にとどまったが、目的1.については「治療のための患者本人の就労制限のための家計の切迫」「介護のための家族の就労制限による家計の切迫」が主な内容であり、これらに対する社会資源の重要性が強調された。このほかに「治療中、今後の治療費の総額の見通しがつかず気がかりだった」「子の学費・養育費に関する不安」「過疎地に居住のため専門治療のため都市部への通院費の負担が大きい」などの記述もみられた。一方で、大多数は「貯蓄や医療保険により、特に経済的な不安感はなかった」という記述であった、 目的2.については「経済的な問題で治療を行わないことはなかった」「ゆとりはなくなり、貯金を切り崩して生活した」「医療保険内外の治療(自費での免疫療法など)を断念した」 にカテゴリー化された。 1年目の量的データの解析結果同様、本研究対象の大多数は65歳以上の高齢者であり「特に問題なし」との記述が多いものの、就労との両立や子育て費用などに関する問題、および地方における遠隔医療・医療格差の問題についての記述が顕在化し、これらに対する医療的・政策的サポートが必要である。
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