平成29年度においては、平成28年度に引き続き国際R&Dフロー行列を用いたネットワーク分析を国際的なR&D投資の波及という観点からより深耕することができた。結果は次の2点にまとめることができる。1点目は、R&D投資の波及における中国の影響力の著しい増大である。中国は、経済規模の著しい増大だけでなくR&D投資の波及においても重要な役割を果たすようになってきている。2点目は、R&D投資の波及における地域的なクラスタの重要性である。媒介中心値でみたとき、ドイツが最も高い数値を示していた。これは、ヨーロッパというネットワーク上のクラスタがR&D投資の波及において重要な貢献をしていることを示唆しているといえる。 以上の分析結果から、貿易のネットワーク構造を通じた技術の波及プロセスを組み込んだ新しい経済成長モデルの構築にあたって考慮すべき点が明らかになった。それはR&D投資の間接的な波及効果の役割である。ある国のR&D投資が貿易の相手国の技術水準に与える直接的な波及効果は、これまでの経済成長モデルにおいてすでに考慮されていた。しかし、ネットワーク分析の結果からは間接的な波及効果の重要性が示唆されている。そこで、ネットワーク上の要素(たとえば中心値の概念)を経済成長モデルに導入することでR&Dの間接効果が経済成長に与える影響を分析することが可能になると考えらえている。こうしたモデルの具体的な開発については今後の課題として引き続き取り組んでいきたい。 また、本研究課題は貿易と技術の関係が重要なキーワードとなっているが、これに関連して貿易と技術の関係が賃金格差に与える影響に関する研究(“Effect of International Trade on Wage Inequality with Endogenous Technology Choice”)をより深めることができた。その成果については国際学会において報告するとともにworking paperとして公表した。また、国際学術誌への論文投稿を行った。
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