本研究の目的は、イスラム諸国における「美術教育を通したイスラムの実践」事例から、イスラム文化に即した美術教育構築のための理論を生成することである。本年度の研究計画における実績は以下の通り。 1. イスラム諸国における美術教育の包括的把握 イスラム諸国における美術教育の有無やその大まかな特色などを、各国の宗教的特徴などと重ね合わせて世界規模で整理した。その結果、多くのイスラム諸国において美術教育に相当する科目が存在すること、それらは特に宗教にもとづく表現(例えばイスラム美術など)を重視したものではないこと、その一方で、人物や動物の具象的な表現を避けるといったイスラム社会の一般的な傾向が教育現場においても現れていること、この3点が広範囲で共通していることが明らかとなった。この成果は、大学美術教育学会誌「美術教育学研究」にて発表している。 2. フィールドワーク対象地の検討 フィールドワーク対象地の候補であるエジプト・アラブ共和国における美術教育について、文献調査を進めた。教育省が作成しているカリキュラムや教師向けガイドブック、その他先行研究や歴史的資料を通して、エジプトの美術教育も他のイスラム諸国同様、特別に宗教を強調しているものではないことが明らかになってきた。その一方で、エジプトを含むイスラム圏における近年の治安悪化により渡航が実現不可となる事態が予想されることを鑑み、英国のイスラム系教育機関を調査対象地として追加した。同教育機関における調査は年度末に既に実施し、その成果の一部を美術科教育学会にて口頭発表した。
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