本研究では、膜タンパク質を生体膜内と同様の構造・機能を保ったまま、人工平面脂質膜(SLB)へと再構成し、膜タンパク質の構造変化や他分子との反応をその場で解析可能なシステムの確立を目指している。しかし、SLBを用いる場合、膜タンパク質-基板間の接触による構造変化と膜タンパク質配向の無秩序性が大きな障壁になっている。 上記の問題を解決するために、平成29年度は平成28年度までに構築したマイカ基板上において、膜タンパク質のC末端と特異的に結合するNi キレート構造を持つ均一なホスホン酸誘導体自己組織化膜(SAM)の上部に平面人工脂質膜を形成することに成功した。蛍光顕微鏡による観察の結果、SAM上の人工膜内における分子拡散は、マイカ基板上の人工膜内における分子拡散に比べて高くなることが分かった。これは基板による物理的な接触が低減されたことを示している。 さらにC末端にHisタグを有する7回膜貫通膜タンパク質を有するプロテオリポソームの安定形成に成功し、これを用いた平面人工脂質膜を形成した。超遠心分離による界面活性剤の除去、フィルタリングによるプロテオリポソーム粒径の均一化により、膜厚5 nm程度の均一な人工平面膜を形成した。 最終的に、本研究の目的である、膜タンパク質-基板間の接触による構造変化を低減し、さらに膜タンパク質配向をそろえて再構成することに成功した。AFMによる膜タンパク質の高さ解析から、マイカ基板上ではランダムな配向をとることが分かった。一方で、SAM修飾基板上では特定の高さの膜タンパク質がAFM観察されたことから、SAMと膜タンパク質のC末端が結合したことにより、特定の膜タンパク質配向が発現したといえる。 本研究で構築したシステムを様々な膜タンパク質系へと拡張することで、これまで解析が困難であった膜タンパク質の迅速な立体構造解析が可能になる。
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