本研究の目的は保守主義が経営者の投資意思決定を規律付けるか,またそうであるならどのようなメカニズムによって企業における会計の保守性が高まるのかについて実証分析を行うことにある.保守主義とはバッド・ニュースとグッド・ニュースを会計上非対称に認識する方法である.近年,基準設定機関を中心に保守主義を排除する動きが広まっているが,いくつかの学術研究からは,保守主義には株主と経営者との間で結ばれる雇用契約を効率的にする効果があるとの指摘がなされている.本研究では特に,設備投資,M&A,在庫投資といった経営者が下す企業の投資意思決定に着目し,保守主義が経営者に対する株主のモニタリングを促進することを通じて,経営者の機会主義的な投資意思決定を規律付けるかどうかについて検証を行う.また,どのようなメカニズムによって,会計の保守性が高まるのかについて分析する. 平成29年度は,平成28年度に実施した「保守主義と経営者の投資意思決定との関係に関する研究」を引き続き行った.具体的には,平成28年度に構築したデータベースをもとに検証を行った.また,「保守主義を高めるメカニズムに関する研究」にも着手した.まず,日本取引所グループが上場会社に対して提出を求めている『コーポレート・ガバナンスに関する報告書』からコーポレート・ガバナンスに関するデータ,日本公認会計士監査協会が発行している『上場企業監査人・監査報酬実態調査報告書』から会計監査のデータをて収集で入手した.続いて,会計の知識が豊富な社外取締役の導入や質の高い監査法人への会計監査の委託によって企業における会計の保守性が増すかを検証した.
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