本研究の目的は極性分子をドーパントとして利用し,その自発的な配向により発現する分極電荷によって,電極から有機層への電荷注入を高効率化するという素子の設計指針を提案し,その妥当性を検証することである.本年度は,分極電荷による電荷注入効率向上の可否を調べるために,①金属/絶縁層/有機層/上部電極からなる素子における電子注入特性評価,また,共蒸着膜における分極電荷の存在を検証するために,②ケルビンプローブによる極性分子・非極性分子共蒸着膜の表面電位測定の2つの実験を行った. ①では有機材料としてAlq3(上部電極界面に正の分極電荷が存在),Al(7-prq)3(負の固定電荷が存在)を用いて評価を行った.両デバイスの静電容量(C)の電圧依存性を調べた結果,Alq3素子では電子注入に伴いCが急峻に増加し(過程I),その後Cは徐々に増加して電子が絶縁層界面に蓄積した(過程II).一方Al(7-prq)3素子では電子注入に伴いCは緩やかに増加し,そのまま絶縁層界面に蓄積した(過程III).またこの素子では電子放出の大幅な遅れ(過程IV)も現れた.これらの過程は,正の分極電荷による電子注入の促進(過程I),負の固定電荷による電子蓄積の抑制(過程II),負の固定電荷による電子注入の抑制(過程III),正の固定電荷による電子放出の抑制(過程IV)によると考えられる. ②ではAlq3を非極性分子であるCBPにドープし表面電位測定を行った.その結果共蒸着膜においても分極電荷が存在することを見出した.Alq3の濃度を薄めていくと,約45%-90%の範囲で分極電荷密度は100%時よりも大きくなり,さらに薄めると減少した.また濃度が薄いほど配向度が増した.これは高濃度領域では反電場効果によってAlq3の自発分極が抑制されている可能性を示唆している.
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