研究課題/領域番号 |
16H06671
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
畠山 浩人 千葉大学, 大学院薬学研究院, 助教 (70504786)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 免疫チェックポイント阻害剤 / 抗体医薬 / 免疫治療 / がん |
研究実績の概要 |
免疫チェックポイント阻害剤であるニボルマブはPD-1に対する抗体であり、PD-1とリガンドPD-L1の相互作用を阻害し免疫抑制を解除することで優れた抗腫瘍効果を発揮するが、奏効率は30%程度と低いため、薬効を予測可能なバイオマーカーや判別方法の開発が求められている。担癌モデル動物を用いた基礎的な研究も進められているが、抗PD-1抗体に対する感受性や耐性を示す担癌モデルマウスの分類は不明確であり、モデル間の比較による薬理効果の検討も十分ではない。本研究では初めにマウスがん細胞14種類を用いて、同系マウスの皮下移植により作製した担癌マウスの腫瘍組織のPD-1、PD-L1に加え計10種類の免疫抑制分子の遺伝子発現量に基づいた細胞パネルを作製した。PD-L1発現量をもとに、低、中、高発現モデルから計7モデルを選定し、抗PD-1抗体の投与後の腫瘍増殖を指標に免疫チェックポイント阻害剤感受性・耐性モデルの分類を行った。その結果、感受性3モデル、耐性4モデルを見出すことに成功した。 抗PD-1抗体の動態評価を行うため、チオール基を導入した抗PD-1抗体を作製し、マレイミド基を介して蛍光標識体を作製した。蛍光標識抗PD-1抗体のin vitro培養細胞系での結合試験からこれまでの報告と同等の結合能を有していることが示された。腫瘍組織中の微小環境・間質バリアは抗体の腫瘍組織への移行と分布に大きく影響する。上記14種類のモデルの腫瘍組織中の微小環境構成因子マーカー発現量を網羅的に評価した。血管内皮細胞マーカーCD31から組織中の血管量、Ng2からペリサイト、またF4/80、Fap-alphaからマクロファージ、繊維芽細胞数を相対的に評価することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
感受性・耐性モデルの分類にむけて当初(10モデル)の想定よりも多くの担癌モデル(14モデル)を作製することができた。また細胞パネルはPD-1、PD-L1の発現量のみを想定していたが、複雑な免疫抑制機構を網羅的に把握するために、さらに8つの免疫抑制性分子の発現量を評価した。これにより14モデルの10種類の分子の遺伝子発現の多相関解析を行い、ほぼすべての分子の発現量に正の相関があることが明らかとなり、当初の想定以上の進捗であった。免疫チェックポイント阻害剤の感受性・耐性モデル分類の検討では、これまでに報告のない4モデルについて新たに感受性・耐性を明らかとし、順調に進捗した。 抗PD-1抗体の動態評価では、蛍光標識体の作製が予想以上に難航したが、蛍光分子の溶解条件や抗体への導入量などの最適化が完了し、in vitro培養細胞系で抗体結合実験が可能であることが示された。放射性同位体標識抗体の作製も同様の理由で当初の計画よりも進捗が遅れている 一方、H29年度に実施予定であった微小環境、間質バリアの解析については前倒しして実施し、抗体医薬の腫瘍組織内動態に影響を及ぼす因子の評価に成功し、順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度は分類が明らかとなった免疫チェックポイント阻害剤の感受性・耐性モデルを用いてin vivo腫瘍組織の分布について蛍光標識抗体を用いて評価する。抗体投与の48-72時間後に蛍光標識Iso-lectinで血管を標識し、生組織や固定組織、また凍結切片について共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察する。血管からの距離を指標に抗体拡散、分布を評価する。微小環境・間質バリア情報から、拡散に影響する因子を解析する。 放射性同位体標識抗体の作製では、キレート剤の抗体への導入率等の反応条件の最適化を行い、111Inや67Gaと錯体形成させた放射性同位体標識抗体を作製する。感受性・耐性モデルへ投与後の血中濃度推移や腫瘍移行量を測定する。またクリアランス臓器である肝臓、脾臓および免疫組織であるリンパ節への移行量を測定し、体内動態のパラメータを算出する。 上記得られたパラメータを組み込んだ生理学的薬物速度論モデルを構築する。腫瘍組織に関してはintra-tumorコンパートメントを設定し、腫瘍内動態を反映させたモデルを構築し、感受性・耐性モデルにおける抗体医薬の動態の差異を検討する。
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