研究課題/領域番号 |
16H06680
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤井 浩光 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任講師 (30781215)
|
研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
|
キーワード | 構造物診断 / インフラ点検 / 打音検査 |
研究実績の概要 |
本研究では,老朽化が深刻な問題となっている社会インフラに対して高精度な自動点検を実現するために,多種センサを用いたマルチモーダルな自動検査システムの構築を目的とする.本研究では,熟練点検員の作業データから正しく診断を行うための特徴量を抽出するために,距離画像センサ,音響センサ,加速度センサなどの異種センサの出力それぞれについて健状・変状のモデルを生成する.その上で,各センサから得られる特徴量を統合することで高精度な診断を自動化するアプローチで検討を進めている. 特に今年度は,実際の現場において重要視されている斜めひび割れの侵入方向の推定アルゴリズムの構築に注力した. 距離画像センサと音響センサを組み合わせて用いることで,従来は困難であったコンクリート表層に対し斜め方向に侵入したひび割れの侵入方向を推定するアルゴリズムを構築し,新規に製作したコンクリート供試体を用いて手法の有効性を検証した.その成果は,国内学会において2件の口頭発表を行い,および国際学会1件に採択済みである. その他,インフラ点検を行う現場ごとに異なる環境音に対するキャリブレーションについて,時間周波数領域における自動校正法を提案し,コンクリート供試体および実寸大の模擬的なトンネルで実験を行い,その有効性を検証した.また,次年度に予定している打叩時における手応えの違いを利用した診断のための準備を行い,特に反力センサの選定を行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度は,多種センサからの特徴量抽出アルゴリズムの構築を行った.特に,以下の項目2.および3.について実験のための供試体およびロボットの試作を行っている間,項目1. の研究について注力し,順調な成果を上げた. 1.斜めひび割れ侵入方向の推定:画像センサによるひび割れ検出と,音響センサによる打音診断法を組み合わせ,ひび割れの侵入方向を推定する手法を構築した.具体的には,レーザ光と画像センサを用いた光切断法により構造物表面の三次元形状を測定し,得られた三次元的なエッジ情報から構造物表層におけるひび割れの分布を推定する.さらに,あらかじめ機械学習により生成した打音による自動変状検出器を用いて,ひび割れ近傍を診断することで,構造物の内部に存在するひび割れによる浮き部の分布を推定する.診断の際には,表層と内部の双方のひび割れの分布情報を組み合わせることでひび割れの侵入方向の推定が可能である.新規に設計・製作したコンクリート供試体を用いた実験により,提案手法の有効性を確認した.本成果は,国内学会で口頭発表し,国際会議に採択が決定(2017年6月発表予定)した. 2.雑音分離:音響診断を阻害する環境雑音,ロボット本体や自動打叩装置の駆動振動などによる影響を分離する手法を検討した.実施者らの独自の手法を時間・周波数方向に拡張することで,コンクリート診断に適した自動校正法を構築した.本研究成果は次年度に実験による検証を実施し,学会等で発表予定である. 3.打叩時の手応えの特徴量化:本研究では,ハンマを振り下げる手元に返る反力の時系列変化の違いを利用して,音響診断だけでは変状の検出が困難な場合にも有効な特徴量の獲得を目的としている.2016年度は,方式検討に用いるコンクリート供試体を製作し,本研究に利用するセンサ類の選定を行った. 以上,本課題はおおむね順調に進展している.
|
今後の研究の推進方策 |
2017年度は,2016年度から引き続き「多種センサによる特徴量抽出法」の構築を行うとともに,抽出した特徴量を用いた「構造物の自動診断アルゴリズム」の構築に取り組む.また,その診断手法のシステム実装を行う.具体的には以下の通りである. 1.距離画像センサを用いたひび割れ特徴量,および注視点検出に基づく要点検箇所の提示:2017年度は,ひび割れの検出結果と打音診断結果を統合し,ひび割れの侵入方向を推定することで,より詳細な検査が必要な箇所の候補を提示する手法を構築する.特に,構造物内部におけるひび割れの分布を2次元画像上でマッピングし,閉合状態になる可能性がある部分を要点検箇所として幾何的に検出する. 2.複数マイクロフォンを用いた環境雑音分離:2017年度は,実現場への適用を見据え,ロボットに搭載した際の振動や自己雑音などに頑健な手法の構築を行う.具体的には,点検時の打診動作による振動やロボットのモータ音などの自己雑音や,トンネル側面の湾曲形状に起因する叩き損じや二度叩きなどによる不良打音への対策をソフト面およびハード面の双方から講じる.ソフト面では,周波数フィルタの設計やマイクロフォンアレイを用いた独立成分分析などを検討する.また,ハード面では,ロボットを用いた検討を行い,特に昨年度に共同研究先により製作された自動打音診断装置を搭載するための自走式ガイドフレームのプロトタイプを用いる. 3.加速度センサを用いた打叩時の手応えの特徴量化:2017年度は,昨年度選定した力・加速度センサを用いてハンマを振り下げる手元に返る反力の時系列変化の違いを利用して,環境雑音の程度が大きく音響診断だけでは変状の検出が困難な場合にも有効な特徴量を求める.昨年度から継続して,センサ出力の時系列に対し確率過程を用いたモデル化を行い,異常箇所に対する打音の検出を行う.
|