研究課題/領域番号 |
16H06684
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
板橋 悠 東京大学, 総合研究博物館, 特任研究員 (80782672)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 新石器化 / 西アジア / 食性 / 同位体 / 家畜化 / 乳利用 |
研究実績の概要 |
植物栽培・家畜化の起源地の1つである西アジアにおいて家畜導入前後のヒトの食物利用を検討するべく、西アジア新石器時代の人骨・動物骨・土器の分析を行った。 【実験設備の構築】本研究の遂行にあたり、まず実験設備の構築を行った。東京大学 総合研究博物館にアミノ酸窒素同位体分析のための前処理設備、および同位体分析装置を構築し、人骨・動物骨・植物のアミノ酸窒素同位体比測定の定期的な測定を開始した。また東京大学タンデム加速器研究施設の実験設備を利用し、土器脂肪酸の炭素同位体比分析のための前処理の体制を整えた。 【考古資料の採取】従来の分析対象遺跡に加えて、本研究の対象となるトルコ新石器時代のアシュックルホユック遺跡、ハケミウセ遺跡の人骨・動物骨を採取し、一部の試料はすでに日本に持ち帰り分析を行った。また残りの一部は持ち出し許可を申請し、認可を待っている状態にある。またチャヨヌ遺跡、および旧石器時代遺跡のボンジュックル遺跡の人骨・動物骨について、資料提供の協議を行い手続きを進めている。ハケミウセ遺跡人骨から歯石資料を選定し、29年度の夏期調査において歯石を採取する予定である。 【考古試料の分析】東京大学 総合研究博物館において、新石器時代中期のアシュックルホユック遺跡、そして新石器時代後期のハケミウセ遺跡、サラット・ジャーミー・ヤヌ遺跡の人骨・動物骨を前処理し、同位体分析を行った。申請者がこれまでに同位体分析を行ってきた、新石器時代前期のテルカラメル遺跡、ハッサンケイフホユック遺跡、新石器時代中期および後期のテルエルケルク遺跡を合わせることで、レヴァント北部、アナトリア中央部、アナトリア南東部の3地域における、新石器時代人の食性を比較した結果、生業の変化に伴う食性の時代変化には地域・遺跡間差が大きいことが確認された。29年度は、乳利用に的を絞った分析を加えることで地域差の要因について検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
【資料採取の遅れ】トルコ共和国において2016年7月15日に発生したクーデター未遂事件およびその余波の影響を受けて夏期発掘調査の中止や渡航の延期を余儀なくされたため、分析対象資料の持ち出しや資料提供者との協議に遅れがみられている。2017年3月にトルコのイスタンブール大学、およびハジェテッペ大学で資料の持ち出しと次の資料の申請、歯石資料のサンプリング方法などの検証を行い、半年遅れでサンプリング計画は進行している。 【実験設備の構築】アミノ酸分析および土器脂肪酸分析用の実験設備の構築は順調に進行した。アミノ酸分析は既に定期的な測定を開始している。土器脂肪酸分析設備も2016年12月に構築されて条件検討の段階にあり、29年度から実資料の分析を開始する。歯石分析については試料採取の遅れの影響を受けているが、新石器時代の人骨資料の前に動物資料から採取した歯石を用いることで前処理、および分析条件の検討を先行して行っている。 【分析結果】新規の資料採取の延期を受けて、既に日本に持ち込まれている人骨・動物骨で可能なコラーゲンの炭素・窒素同位体比分析、およびアミノ酸の窒素同位体比分析を中心に作業を進めた。28年度は人骨151個体、動物骨59個体からコラーゲンを抽出し、同位体比分析を行った。これにより西アジアの3地域で植物栽培、家畜導入の前後の新石器時代人の動物性タンパク質摂取率の時代変化・地域差の検討が可能となり、本研究の第一義となる家畜導入がヒトの食性と社会への影響の検証に必要な食性情報は確保されつつある。 次に、第二の目標である乳製品の利用の検証であるが、まずサラット・ジャーミ・ヤヌ遺跡出土土器10点で脂肪酸炭素同位体比分析を行い、乳の煮炊きに使われた製品かを検討した。今後も継続して土器脂肪酸分析を進めて、人骨分析と合わせて西アジア新石器時代人の乳利用の起源を検証する。
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今後の研究の推進方策 |
【人骨の同位体比分析】既に7遺跡の人骨・動物骨からコラーゲンを抽出し、炭素・窒素安定同位体比を測定しているが、アミノ酸の窒素同意多比分析はさらに別の前処理と分析が必要であるため、測定された試料は90試料ほどである。29年度は、それらのコラーゲン試料のアミノ酸分析を継続して進め、ヒトの食性データを増やす。 【食性データによるヒトの食物利用の時代差・地域差の検討】これまで得られた人骨・動物骨の炭素・窒素同位体比分析、アミノ酸窒素同位体比分析のデータを使い、家畜導入がヒトの食性と社会に与えた影響を議論する。具体的には、動物性食物の消費、水産資源の消費、乳幼児の離乳時期と離乳食について、植物栽培・家畜導入の前後で時代を区分し、その時代変化を地域ごとに検証する。 【土器脂肪酸分析】土器脂肪酸分析については設備を構築し分析を開始した段階にある。本研究では乳利用に的を絞り、人骨の同位体比分析を行った遺跡資料で土器から脂肪酸を抽出し、その同位体比を測定することでその土器が何の食資源の煮炊きに使われたのかを推定し、人骨の同位体比と合わせた検証を行う。 【歯石のタンパク質分析】現在は西アジア新石器時代遺跡人骨の歯石を日本に持ち帰ってこれていないため、西アジアの動物骨や中国や日本などの他の地域の人骨歯石資料を用いて、歯石タンパク質分析による乳利用の条件検討を進め、資料を採取次第に西アジアにおける乳利用の検討を開始するスケジュールで準備を進める。 【考古試料の採取】歯石サンプルおよび土器資料について、人骨資料提供者を通じて資料採取を進める。29年度の前半期においてハケミウセ遺跡人骨付着の歯石資料をサンプリング予定である。また土器資料については、日本の研究機関所蔵資料を中心に採取を行う。人骨・動物骨はトルコ政府に既に持ち出し申請中の資料の輸出を行う。
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