研究課題/領域番号 |
16H06692
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
今清水 正彦 東京大学, 医科学研究所, 特任講師 (90465930)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | RNAアプタマー / ハイスループットシーケンス / 熱揺らぎ / 核酸創薬 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、申請者がこれまでに見出した熱揺らぎを利用する転写機構の概念を医科学分野に応用し、核酸・タンパク質相互作用に基づいた核酸医薬の作用機序・設計原理を解明することである。具体的な研究項目は以下に示す。 1. 多様な生理・薬理機能を生み出す RNA アプタマーの高い標的分子結合性を分子科学に則して 理解するため、熱揺らぎの概念を導入する。 2. High-throughput sequencing (HT-seq) 解析を導入し、核酸創薬パイプラインの脱ブラックボックス化を狙う。これを基に、機能に応じた核酸医薬の分子設計原理の構築を目指す。 3. ヒト TGF-β1 と特異的に相互作用し、薬理作用(TGF-β1 受容体への結合を阻害)を持つ RNA アプタマーを作製する。 1. において、申請者らが発見した熱揺らぎを利用する転写の一時停止機構の論文を2016年11月にProceedings of the National Academy of Sciencesに発表した。揺らぎによる構造不均一性が、RNAアプタマーと標的タンパク質との結合にどのように寄与するか、現在研究を進めている。2. において、従来のRNAアプタマー取得法(SELEX法)には煩雑な繰返し実験が必要であり、それに依存してアプタマーの選抜過程もブラックボックスになるという問題がある。本研究では、方法の短縮化と脱ブラックボックス化のため、アプタマー取得に必要な「仕事」を最大限HT-seqと配列情報解析に置き換えた SEEDS(Statistical Evaluation of Enriched-ligands by Deep Sequencing)法の開発を行った。 3. において、2.で新たに構築したSEEDS法を用い、抗TGF-β1アプタマー候補を複数同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HT-seq解析で得た莫大数のRNA配列を基に、標的分子との結合親和性に依存した配列嗜好性を統計的に評価し得るSEEDS法を開発した(現SEEDS法に残された課題は、今後の研究の推進方策参照)。具体的には、約10の15乗種類のランダムDNA 配列を鋳型として合成した40-mer RNAを用い、1回または2回の標的分子との結合・精製実験を行った。得られたRNAプール を用いてHT-seq libraryを作製した。標的TGF-β1との結合により安定な複合体を形成したものを除く全てのRNA分子を最大限除去する工夫として、アプタマーのselectionステップにRNaseI消化を取り入れた。得られたRNAは極めて微量であり、HT-seq libraryに必要なアダプター配列を従来のライゲーション反応で結合するのは困難であった。このため、逆転写反応と逆転写産物へのアダプターDNAの結合を同時に行うSMART法を導入した。これにより、selectionに用いた RNA配列からPCR 増幅に必要なprimer領域を除去でき、かつ最小ステップでHT-seq libraryを作製することに成功した。得られた各libraryの配列を、HT sequencer (Ion PGM system) を用いて数十万~百万リードずつ解読した。読まれた配列に存在する偏りを標的への特異的親和性として検出するため、FASTAptamerプログラムによるクラスタリング解析を行った。本法を用い、これまでに複数の候補TGF-β1アプタマー配列を同定した。electrophoretic mobility shift assay (EMSA) 及びRNaseI protection assay を併用し、実際にこれらの候補アプタマーがTGF-β1にnM order で結合することを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
TGF-β1アプタマー候補の機能解析:TGF-β1 との強い結合が予想される RNA アプタマー候補(SEED法で取得)において、EMSAに加え、表面プラズモン共鳴解析装置(Biacore)を使ったアフィニティー計測を行う。nM オーダーの解離定数が得られた候補において、生体内で分解され難い修飾塩基(2’ fluoroあるいは2’ O-methyl)を加え、市販の pGL4.48 ベクター(Promega) を予め入れたヒト由来株化細胞(HEK293)に導入し、TGF-β依存的な転写因子である Smad 結合配列をプロモーター領域に持つレポーター遺伝子の発現変化から TGF-β1 の阻害効果を評価する。
SEEDS法の改善:1回または2回のselectionでアプタマーを取得するため、selectionで得たRNAが極めて微量になる。現段階では、HT-seq library作製のための酵素反応及びPAGE精製に耐え得るRNA量を確保するため、ダミーRNA(逆転写と続くPCR後に制限酵素で切断可能)をサンプルRNAに添加して実験を行っている。しかし、現法では制限酵素処理後もダミーRNAが多く残ることがHT-seq解析で明らかになっている。これを改善するため、(1)PAGE精製ステップを省きダミーRNAを用いない、(2)ダミーRNAのデザインを複数の制限酵素で切断できるように変え、かつ切断産物を続くPCR増幅に持ち込まない、という2つの案を試す予定である。
アプタマーの標的結合親和性における揺らぎの寄与について:SEEDS法で取得した TGF-β1 RNA アプタマーの配列群をインプットとし、既存の2つの統計力学モデル(塩基対形成確率と配列反復性を揺らぎの指標とする)を用い、RNA配列群の平均自由エネルギーを計算することで標的結合親和性への揺らぎの寄与を評価する。
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