研究課題/領域番号 |
16H06696
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 草大 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (20778758)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 変体漢文 / 和文 / 漢文訓読文 / 古記録 / 古文書 |
研究実績の概要 |
当該年度は(1)語彙と(2)書記の観点より変体漢文の研究を進めた。 (1)語彙:平安時代における変体漢文と漢文訓読文それぞれの語彙の比較を行った。漢文訓読文では普通に用いられるが和文では基本的に用いられない語、則ち狭義の「漢文訓読語」からスミヤカナリとタヤスシの2語を取り上げた。これらは変体漢文でも用いられている語であり、その意味で「変体漢文における漢文訓読語性」を示すものと捉えられるものであるが、その用法まで検討したところ、実は漢文訓読文と変体漢文とでは相違があり、むしろ和文との共通性を示す部分のあることが判明した(例えば漢文訓読語タヤスシに対応する語として和文語タハヤスシが存するが、変体漢文におけるタヤスシの用法は漢文訓読文におけるタヤスシよりもむしろ和文におけるタハヤスシと共通している)。 このことについて、変体漢文は「定訓/常用漢字」によって表記されるという制約によって漢文訓読語を採用しているが、そのような制約を受けない語の意味・用法というレベルではむしろ和文語のそれを採用していると分析した。以上のことを2016年11月の第115回訓点語学会にて発表した(「変体漢文の中の〈訓点語〉」)。 (2)書記:「不読字」の問題を取り上げた。不読字は、中国語文を日本語文に変換する(=漢文訓読)際に訓みが与えられなかった、則ち日本語化に際して不要と見做されたパーツであり、逆に日本語文を漢文式に書く(=変体漢文)に際しても当然不要たるべきものである。しかし実際には変体漢文に不読字の使用例は一定数見られる。その中には、独自の句読点的用法があることを指摘し、中世文書における不読字「矣」が文章内の段落末に相当する部分(のみ)に用いられる例の散見することを指摘した。以上のことを2017年3月刊の蜂矢真郷編『論集古代語の研究』(「変体漢文における不読字」)にて論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が掲げる、語彙・書記という2観点からの変体漢文の言語的性格の解明という目標について、それぞれの観点からの調査を遂行し、且つ公表するところまで推し進めているため。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究の内、特に(1)語彙において着手した、漢文訓読文の語彙との比較による変体漢文の語彙の性格解明という課題について一層推進したい。具体的には対象語の追加によって本年度の立論の補強ないし修正を試みる。 また、平安和文の男性発話部には漢文訓読語がしばしば含まれていることが従来指摘されてきたが、本年度の研究結果を勘案すると、それらの中にも実は直接には変体漢文との共通項として捉え直すべきものも一定数含まれていることが予想される。平安和文の男性発話部の語彙と変体漢文の語彙との関係性という観点からも研究を進めたい。
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