(1)平安時代における「変体漢文」(漢文の措辞法を活用しながら、適宜日本語的な要素を混入して日本語文を書き表した文章)と、同時代の二大文体である「和文語」(源氏物語などの仮名書き散文の文体)及び「漢文訓読語」(漢文に訓点を付けて読み下した文章の文体)との関係性についての解明を推し進めるため、これらの文体における語彙調査を行った。前年度に引き続き、いわゆる漢文訓読特有語の内、変体漢文でも用いられている語を取り上げて、その用法を文体間で比較・検討した。その結果、語形としては同じでもその用法には文体間で相違が見られ、語形の観点からは漢文訓読語と共通すると見える語が、用法の観点からはむしろ和文語と共通すると見なせる場合があることを確認した。これは前年度の研究結果を補強するものである。
(2)平安時代における変体漢文の書記体系についての理解を進めるため、当時の日本語とそれを表記するための漢字・漢文との関係について調査・記述を行った。具体的には、変体漢文によって表現される言語は、変体漢文という書記様式が持つどのような側面に影響を受けているか(例えば、変体漢文においては表記しにくい語が存在するのは、変体漢文という書記様式のどの側面にその原因があるのか)について検討・分類を行った。その結果として、「定訓に基づく表記」「助詞・助動詞等の表記における制約」「語の漢字化」「日中両言語の文構成の相違」といった要素を指摘した。
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