研究課題/領域番号 |
16H06704
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山本 浩司 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 講師 (80780080)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 金融史 / イギリス史 / 経済史 / 行動経済学 / 社会心理学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、18世紀初頭の投資家の認知バイアスを、綿密な歴史史料分析によって抽出し、そこから金融史研究に行動ファイナンスと行動経済学の視点を実証レベルで導入することにあったが、本年度平成28年度8月から翌29年3月までの主たる成果は次の通りである。まず、リサーチアシスタントの決定後、これまでに既に蒐集した手書史料の整理および文字おこしの作業を開始した。特に、英国パーラメントアーカイブ、ケンブリッジ大学図書館、ウェールズ国立図書館、ハーバードローススクール図書館、イェール大学バイネッケ貴重書図書館で見つかった史料の文字おこしを進めることが出来た。特にこれまで分析されることの少なかった投資家とブローカーとの手紙を100通以上文字おこし出来たことが大きな成果といえる。また、これらと同時に分析されるべき政治家や政府高官の手紙についてもまとめた書き起しを進めることができた。また9月には研究開始当初の問題意識と仮説を所属大学において英語で発表した。研究協力については、イギリス、オランダの著名な研究者と連携を初めており、平成30年度以降の大型研究プロジェクトの発足にむけて、日英蘭三か国でそれぞれ研究助成に応募することで合意し、準備すすめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究がおおむね順調に進展していると判断できる理由としては以下の2点があげられる。 まず第一に、これまでの研究がほとんど言及することのなかった大量の手書き史料について11か所の史料館・図書館から集めたものを横断的に文字おこしを進めた点がその理由である。 第二に、海外の研究者との連携を開始で来たことがあげられる。我が国の西洋経済史研究者においては、海外の研究者と連携することはあっても、その際にイニシアチブをとり、共同研究を牽引することは珍しい。本研究課題についてはヨーロッパの研究者もその成果に大きな関心を持っており、今後の共同研究を前提に連絡網を構築が始まったことが第二の理由である。しかしながら、帳簿の分析については特筆すべき進展はなかったため、「計画以上」の進展とはいえず、引き続き地道な作業の継続が肝要であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度については、アシスタントを増員し、さらに効率よく文字おこしを進める。特に投資家の手紙だけでなく、帳簿についても文字おこしとデータ化を進めることが目標となる。以上の作業と平行して、以下の二点について詳細な分析を開始したいと考えている。第一に、株価の継続的上昇への期待感が、どの程度の頻度で群衆の「愚かさ」や「狂気」によって説明されたのか文字おこしした書簡の広範な分析によって検証する。投資規模や金融に関する知識と経験の不均衡こそあれ、多くのアクターが合理的投資戦略を志向していたことは、すでに先行研究が明らかにしている。しかし、そうした合理的アクターがどの程度まで愚民観を説明原理として援用していたかについては理解が不十分である。第二に、株式市場における投資行動の「狂気」を前提していたことが、株価の変動予測と利益確定のための売却時期の判断にどのような影響を与えていたかについて、投資家の書簡と帳簿を用いて検討する。 以上の分析にもとづいて、今年度後半にはロンドンをベースに出張をし、ロンドン、ウォーリック、ベルン、ユトレヒトなどの諸大学で研究の成果発表をしたいと考えている。こうしたセミナー等で文字おこしした史料の分析結果を試し、投稿論文の原稿執筆の一助とすること、また関連研究者との共同研究の準備を進めることが目的となる。
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