本研究の目的は、18世紀初頭の投資家の認知バイアスを、綿密な歴史史料分析によって抽出し、そこから金融史研究に行動ファイナンスと行動経済学の視点を実証レベルで導入することにあった。近年、ミクロ経済学や金融論においては、行動主体の合理性の限界を認識し、古典的理論では説明できない限定的合理性(bounded rationality) や認識バイアス(cognitive bias)を特定する実証研究が近年盛んに行なわれている。これを踏まえた本研究が目指す大きな目的は、申請者の歴史研究者としてのスキルを最大限活かし、300年前の投資家の経験と認知バイアスを歴史的にボトムアップで再構成することだった。この目的に即した史料の蒐集と分析を着実に進めることができた。 その途中結果が評価され、2017年6月、8月のイギリス滞在を経て、英国Hertfordshire大学のAnne Murphy教授とオランダ自由大学のInger Leemans教授とともに、研究チームを組織し、金融史の国際ネットワーク「History-of-finance.org」を立ち上げたことができた。すでに50名近くの研究者が本ウェブサイトに登録をしており、今後このネットワークの中から、今後の研究発展に必要な研究協力者を見つけ出すことが容易になることが期待される。さらにこのネットワークから海外研究者を日本に招聘することで、ファイナンス・金融史の国際拠点として日本の地位を高めて行くことも期待される。より直近の成果としてはMurphy、Leemans両教授及び金融史研究者を2018年10月に東京に招聘する方向で準備が進んでおり、すでに英国経済史学会の国際学会助成を少額であるが受賞した。今後は、継続的な資金確保を進めながら、本研究の個人研究を後押しするような形で国際研究交流を発展させて行きたい考えである。
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