本年度は,異常光起電効果における不純物効果および実時間発展に関する理論的研究を行った.具体的には,以下の研究課題を遂行した.さらにこれらの結果を論文にまとめるとともに,研究会などで積極的に研究成果の発信を行った. 異常光起電効果における不純物効果:異常光起電効果は波動関数の変形に由来する電流である為,不純物に対する応答は物理的に極めて非自明な問題であると同時に,理論的に取り扱いの難しい問題でもある.本研究では,昨年度開発したコードを用いることで非平衡グリーン関数法に基づいた信頼性の高い解析を行った.その結果,コンダクタンスの振る舞いに,メゾスコピック系で見られるuniversal conductance fluctuation 様の振る舞いがあることを確認した.これらの成果は,これまであまり研究されてこなかった異常光電流の振る舞いの基本的性質に対する理解に貢献すると期待される. 異常光電流の時間発展:一方で,実時間発展においては,実際に波動関数の時間発展を追うことで数値的に解析を行った.具体的には,B. K. Nikolic氏らの協力を得ることで非平衡グリーン関数の実時間発展の解析を行った.その結果,super-balisticな拡散が生じることや,2光子過程による新奇な光電流が生じることを示した. ワイル半金属における光起電効果:本年度はワイル半金属として知られるTaAsにおいて近年報告された光起電効果の実験を理解する為,Y. Zhang氏らの協力を得て第一原理計算を用いた理論解析を行った.そして従来のモデル計算では存在しないとされていたシフト電流が生じることを確認し,この起源としてこれまで考慮されていなかった光遷移過程があることを見出した.この計算結果は報告されている実験ともよく一致しており,今後の理論研究だけでなく実験研究にも貢献することが期待される.
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