研究課題
本研究では,ヒューマノイドが「環境に掴まり」自身の体を支えながら移動を行う環境掌握移動の実現を目指している.本年度は,主に環境掌握移動を可能とする前腕・ハンド系のハードウェア開発に取り組んだ.設計においては,人体の前腕・ハンド系の構造を参考とするアプローチをとり,ハンドではなく前腕に比較的出力の大きな筋アクチュエータを集約することで,環境保持によるアクチュエータの損傷を防ぐ方針とした.前腕は,非常に狭い設計空間にハンド及び手首の多自由度を駆動しかつ環境に掴まれるほどの出力を備えたアクチュエータを複数個搭載することが必要であり,設計空間と機能のトレードオフが課題であった.そこで,骨格と筋アクチュエータを一体的に設計する骨構造一体小型筋モジュールを開発し,これを用いて前腕を構成した.これによって,コンパクトながらも人体と同じ橈骨尺骨構造を有し,ハンドと手首を駆動する8筋を搭載する前腕を構成することが出来た.ハンドは,環境接触時の耐衝撃性・柔軟性と強力把持に耐える構造的強度を兼ね備える必要があったため,切削バネを指関節部に採用した5指ハンドを開発した.切削バネを指として機能させるために,靭帯を模した金属プレートを取り付け,屈曲方向を制限する異方性を与えた.また,指先及び付け根部分に力センサを搭載することによって,物体把持時の把持力制御が可能となっており,円筒や長方形といった様々な物体形状や,柔軟物や剛体など様々な物体硬さに適応する把持戦略の構築を進めた.以上の前腕・ハンド系を搭載した等身大筋骨格ヒューマノイド腱悟郎において,環境へのぶら下がり動作を実現し,人体構造に学ぶヒューマノイド構造設計法の有用性を示した.
2: おおむね順調に進展している
初年度にハードウェア開発を行い,二年目に等身大ヒューマノイドでの運動実験を行う当初の計画通り,初年度のH28年度には「環境に掴まれる」前腕・ハンド系の開発及び基礎動作実験を完了することができた.設計において,人体の前腕・ハンド系の筋骨格構造とそれがもたらす機能的特徴を分析調査し,前腕とハンドを別々に設計するのではなく一体としてとらえ,人間の筋骨格構造を模擬し前腕部に筋を集約させることで,「環境に掴まれる」ほどの高把持力を備えた前腕・ハンド系を実現することができた.
H28年度で前腕・ハンド系のハードウェア開発が概ね完了したため,今後はそれらハードウェアを動作させるソフトウェア基盤の開発を進め,ヒューマノイドによる環境掌握移動に取り組んでいく.具体的には,1.筋張力とハンド触覚を用いた環境掌握状態の把握:筋骨格ヒューマノイドの全身分布型力センサを活用し,環境掌握時の状態把握ソフトウェアの構築を進める.筋張力を利用することで環境に掴まった際に手首にかかるトルクを計測することと,ハンドの触覚センサを利用し把持状態の推定を行う.2. ビジュアルフィードバックを利用するリーチング:環境に掴まるためには,手先を対象物にリーチングする必要がある.この点においても人間の運動実現のプロセスを参考とし,視覚を用いたビジュアルフィードバックを行い手先位置誤差を修正しながら,対象物へリーチングする手法の構築を進める.3. 等身大筋骨格ヒューマノイド腱悟郎の全身運動基盤への統合と運動実現:等身大筋骨格ヒューマノイド腱悟郎での運動実現を考えているため,開発した前腕・ハンド系と上記のソフトウェアを腱悟郎の全身運動基盤システムへ統合していくことと,腱悟郎での運動実験を並行して進める.
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