本研究の目的は、生きた神経回路を一細胞レベルで設計・構築可能にするデバイスを開発することである。本研究では単一神経細胞の形態制御と可動化を実現するデバイス:「単一神経細胞プレート」を提案し、従来の培養神経回路の制御技術において神経細胞の形態を正確に制御することが困難であった問題点を解決することを目指す。「単一神経細胞プレート」は生体適合性ポリマーを微細加工した、単一神経細胞の大きさの板状のデバイスであり、その上で単一神経細胞の形態を制御しながら培養しつつ任意のタイミングで自在に配置替えできるように構築する。「単一神経細胞プレート」技術によって、チップ上に自在に神経回路を構築するブレイン・オン・チップ技術の実現につながると考えている。 平成28年度では研究課題として、単一神経細胞プレートを用いて神経回路を構築することが可能であることを示すために、ラット初代培養海馬神経細胞を用いて神経回路を構築し、その回路構築プロセスの安定化および構築した神経回路の機能解析を行った。回路構築プロセスの安定化については、まず単一神経細胞プレートによって神経細胞の形態がプレートで制御されることを免疫染色によって確認し、制御成功率を定量化した。次に、形態を制御した単一神経細胞プレート上で2週間以上培養し、マイクロマニピュレータに取り付けたガラス管によってプレートの側面を押すことで操作した。また、単一神経細胞プレートを挿入できるマイクロサイズの固定台を製作し、プレートを固定できるような形状を最適化した。最後に、構築した神経回路について、免疫染色と細胞内Caの可視化技術を用いて、神経細胞の間にシナプス結合が形成されることを確認した。以上により、本研究で提案する「単一神経細胞プレート」によって、ラット初代培養海馬神経細胞の細胞体・軸索・樹状突起の位置を制御した神経回路を自在に構築できることがわかった。
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