研究課題/領域番号 |
16H06733
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古賀 晧之 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (30783865)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 異形葉性 / 水草 / ミズハコベ / アワゴケ属 / トランスクリプトーム / 形態形成 / 葉 |
研究実績の概要 |
本研究は、オオバコ科の水草ミズハコベ Callitriche palustris L. をモデルとして、水草が沈水時に示す顕著な異形葉性がどのような発生メカニズムで制御され、どのように進化してきたのかを明らかにすることを目的としている。非モデル植物であるミズハコベでは、葉の発生メカニズムについての分子生物学的理解はまったく進んでいないため、本研究では特に網羅的解析を中心としたアプローチによって異形葉性に関わる因子の特定を目指す。昨年度は、本種の異形葉性を制御することが示唆される植物ホルモンジベレリンとエチレン、およびアブシシン酸による遺伝子発現制御の解明のため、沈水環境下でジベレリンとエチレンの阻害剤、およびアブシシン酸添加によって異形葉形成が阻害される状態下の解析を行なった。形態観察の結果、いずれの条件でも気中で育成したきとほぼ同様な葉形成がみられることがわかり、さらにmRNA-seqによってそれぞれの条件下で発生中の葉での網羅的発現情報を得ることができた。また、近縁種で異形葉性を失ったとかんがえられるアメリカアワゴケについても、水中と気中それぞれの条件で発生中の葉の発現情報を得た。現在のところ、これらの情報の解析から、ミズハコベにおいて異形葉性に関わりうるような因子を200程度まで絞り込むことができている。今後これらの情報に、別の条件での発現情報も加えて、さらなる解析を行う。一方で、ミズハコベを用いた形質転換系について、おおよそ安定的に形質転換体を得られる系を確立できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの実験で、予定していた網羅解析の約半分を行なうことができ、それらの解析からある程度、ミズハコベの異形葉性をコントロールしうるような因子を絞り込むことができた。また、近縁種のアメリカアワゴケについても、分子的な情報が全く未知のところから、葉の発生に関わる遺伝子群を特定し、それをミズハコベと比較することができる状態となった。さらに、ミズハコベを用いた形質転換実験については、効再現性高く形質転換体を得られるような実験系を構築できた。そこで今後この系を用いて、実際に本種において遺伝子のノックダウンや過剰発現を引き起こす形質転換体を作成する。
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今後の研究の推進方策 |
今後もミズハコベを用いた網羅的解析を中心に、本種の沈水による異形葉性のメカニズムに迫る。気中で育成しているミズハコベに対して、エチレンガスやジベレリンを添加することで、不完全ではあるが水中葉のような細い葉の形成を誘導することができる。これらの条件での葉の発現解析を行なうことで、エチレンシグナルやジベレリンシグナルがどのように葉の発生に関わるかを検証する。さらに、葉の発生を3~4の段階に分け、サイズ、および部位(基部、先端部)ごとの発現量比較も行なう。これらのデータを統合して、共発現ネットワークを構築し、遺伝子間の共発現関係を明らかにする。これまでの研究で、育成条件間の比較や水中でのホルモン処理によって、それぞれの形態の葉形成時に特異的に働く遺伝子群が特定されているが、その数はいまだ数百と多い。そこで、それらの因子の中から、上記共発現ネットワーク上の特徴、異形葉性を示さないアメリカアワゴケにおけるオーソログの発現パターン、さらにはコードされるいタンパク質の分子機能などの情報をもとに、ミズハコベの異形葉性調節の中心となる因子を絞り込む。これらの遺伝子のin situ 発現解析や、機能阻害形質転換体等の作成によって、本種の異形葉性の調節機構の実証的解明をめざす。また、それらの遺伝子のモデル植物におけるホモログの知見との比較により、本種の異形葉性がどのように進化してきたのかを考察する。
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