本研究は、オオバコ科の水草ミズハコベ Callitriche palustrisをモデルとして、水草が沈水時に示す顕著な異形葉性がどのような発生メカニズムで制御され、どのように進化してきたのかを明らかにすることを目的としている。ミズハコベの異形葉性にはいくつかの植物ホルモンが関わっていることがわかっていた。そこで、それら植物ホルモンを阻害または活性化する条件等で得た、発生中の葉における遺伝子発現情報を利用して、異なる葉発生の制御に関わる因子を絞り込んだ。さらに、近縁種で異形葉性を失ったと考えられるアメリカアワゴケ C. terrestris との遺伝子発現比較から、絞り込んだ因子の多くがたしかに異形葉性に関わっているらしいことが示唆された。個別の遺伝子の時空間的発現解析からも、表現型とよく一致する遺伝子発現パターン示す遺伝子が見つかったため、本解析によって重要遺伝子が絞り込まれていることが支持された。この遺伝子群には有意に多くの転写因子遺伝子が含まれており、本種の異形葉性にみられる顕著な細胞形態の変化がこうした転写因子の発現によって調節されることが示唆された。現在、これらの遺伝子のノックアウト植物や、植物ホルモンのシグナル遺伝子の改変植物の作成を進めており、異形葉形成機構のより実証的な解明を進めている。また。ミズハコベの異形葉性に伴う微視的な表現型として、水中で作る葉では気孔数の顕著な減少が起こる。気孔形成の分子発生学的知見はモデル植物においてよく集積されているため、それを元に気孔減少のメカニズムをミズハコベについても検証するべく、予備的な観察、実験を開始した。その結果、アワゴケ属において興味深い気孔形成パターンの進化があったことが示唆され、今後の研究の展望を得ることができた。
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