サケOncorhynchus ketaは重要な漁業資源であるが、近年、資源量の減少と母川への回帰率の低下が報告される。冬から春に人工孵化放流されるサケ稚魚は、初春に降海しオホーツク海へ向かう。その際、放流数の約9割がオホーツク海に入るまでに減耗するとされる。しかし、降海後に外洋を回遊しオホーツク海に達する前の10-15cm程度のサケ幼魚の捕獲は非常に困難であり、サケの生活史における大きなブラックボックスとなっている。減耗の激しいこの幼魚期における詳細な生態情報を得ることはサケの資源量の減少メカニズムを明らかにする上で急務である。本研究では魚食性海鳥をサケ幼魚のサンプラーとして用いることで、これまでサンプリングが困難であったサケ幼魚を採集し、その生活史や上位捕食やによる捕食圧を明らかにすることを目的とする。我々は、サケがオホーツク海に入る前に通過すると考えられる、北海道の日本海に位置する松前小島、天売島、および礼文とど島、また太平洋に位置する大黒島においてウトウの餌調査を行いウトウによるサケ幼魚への捕食圧を推定した。また、ウトウから得られたサケ幼魚の耳石を用いてサケの放流された河川を特定した。大黒島のウトウによるサケ幼魚の捕食量は最大で約5%程度であると推定されたが、日本海側すべての島のウトウによるサケ幼魚の捕食量は非常に高く推定され、餌調査の不足による過大評価があることが推察された。また、大黒島でとられた2割弱程度のサケ幼魚の耳石から由来河川を判定可能な輪紋が観察され、北海道太平洋側および岩手県の河川由来のサケ幼魚が来遊していることが明らかとなった。
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