研究実施計画に基づき新規DAMPs候補分子の遺伝子組み換え体を作成した。これをマウス腹腔マクロファージに作用させるとTNF-a mRNAの誘導が見られた。この分子は比較的低分子(約20kDa)でもあり、新規DAMPsである可能性が示唆された。また、過去の報告からこの分子は大腸癌細胞において高発現していることが知られていた。そこで大腸癌細胞が細胞死を起こす際にこの分子がDAMPsとして細胞外に放出され、周囲に炎症反応を惹起することで癌の進展に何等かの影響を及ぼすのではないかという仮説を立てた。実際、CRISPR/Cas9システムを用いてこの分子を欠損した大腸癌細胞株(以下KO細胞)を作成すると、マウス皮下において野生型細胞と比較し顕著な増殖遅延を示した。興味深いことにこのKO細胞はin vitroにおいて野生型細胞と同程度の増殖を示した。これはこの分子が癌そのものの増殖ではなく、癌の周囲環境、すなわちがん微小環境に働きかけ、癌の進展を促進しているものと考えられた。がん微小環境においては、多様な細胞種が機能を発揮しているが、なかでも免疫細胞は中心的な役割を担っている。そこで、がん微小環境中の免疫細胞集団をフローサイトメトリーによって解析したところ、KO細胞由来の腫瘍において、骨髄由来免疫抑制細胞(Myeloid-derived suppressor cells; MDSCs)の顕著な低下が見られた。MDSCsは未熟な骨髄系細胞であり、抗腫瘍免疫応答を強力に抑制することでがんの進展を促進する。すなわちこの分子はMDSCsのがん微小環境への動員を介して、癌の進展を促進していると考えられる。がん微小環境は抗腫瘍免疫応答抑制などの機構により、がんの治療反応性に極めて重要な役割を果たすものとして近年注目されている。本研究はがん微小環境を標的とした新規治療法開発につながる可能性がある。
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