研究課題/領域番号 |
16H06750
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 信彦 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (80572552)
|
研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
|
キーワード | Dent病 |
研究実績の概要 |
本年度は①CLC-5ナンセンス変異に対するリードスルー薬PTC124の効果検証, ②メガリン高発現性ラット卵黄嚢由来L2細胞培養実験, 及び③HEK293細胞発現系を用いたPTC124の効果検証実験を行った. ①HAタグ付きCLC-5コンストラクトに3つのナンセンス変異(W279X,R648X, R704X)を導入し, アフリカツメガエル卵母細胞に強制発現させた後に二電極膜電位固定法を用いて電流-電圧曲線を描いた. wild type CLC-5発現卵母細胞で確認された典型的な強い外向き整流性電流は変異CLC-5発現卵母細胞では消失し, truncated CLC-5における電気学的特性/機能喪失を確認した. 一方, 卵母細胞系においてはPTC124による電流回復効果は明らかではなかったが, 原因として推察される修復CLC-5発現量の僅少に対して打ち込むcRNAとPTC124の至適濃度の検討を引き続き行っている. ②メガリン高発現性ラット卵黄嚢由来L2細胞培養実験を行った. 接着細胞である同細胞だが通常の37℃, 5% CO2の環境下では意図した接着/増殖が確認されなかった. 既報に基づきゼラチンコートされたディッシュを使用した細胞培養も行ったが, ウエスタンブロット法やエンドサイトーシスアッセイなどを行うのに十分な細胞量の確保が難しいため, 他細胞株の使用を検討する. ③HEK293細胞に①と同様のCLC-5ナンセンス変異体を導入し, PTC124のリードスルー効果をウエスタンブロット法により解析した. W279X, R648XではPTC124による修復CLC-5蛋白の有意な増加を認めなかったが, R704X+PTC124では一定のリードスルー効果を認め, PTC124によるCLC-5機能回復の可能性が示唆された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CLC-5ナンセンス変異に対するリードスルー薬PTC124の効果検証では, まずHAタグ付きCLC-5コンストラクトに3つのナンセンス変異(W279X, R648X, R704X)を導入し, アフリカツメガエル卵母細胞にcRNA注入により強制発現させた後に, 二電極膜電位固定法を用いて電流-電圧曲線を描いた. ナンセンス変異の中でもR648X変異では外向き整流性電流が保たれていたとする報告(Hum Genetics 2015)があるが, 我々の結果ではwild type CLC-5発現卵母細胞で確認された典型的な強い外向き整流性電流はいずれの変異CLC-5発現卵母細胞でも消失し, truncated CLC-5における電気生理学的特性/機能喪失が改めて確認された. PTC124による電流回復効果はアフリカツメガエル卵母細胞系では明らかではなく, PTC124使用報告が少ない同発現系におけるPTC124の薬理特性の問題あるいは至適濃度の問題が推察され, 今後の課題として検討の余地を残したが, ③HEK293細胞発現系においてはR704X発現細胞でPTC124のリードスルーによる修復CLC-5蛋白量の増加がはじめて確認され, PTC124による同変異における生理機能回復の可能性が示唆された. このような複数の知見が得られており, 実験はおおむね順調に進展している. また, ②メガリン高発現性ラット卵黄嚢由来L2細胞培養実験において通常の培養環境では続くウエスタンブロット法やエンドサイトーシスアッセイなどを行うのに十分な細胞量の確保が困難であることが確認されたため, 他細胞株使用の検討を行っている.
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度計画を継続・完遂する. HEK293細胞においてリードスルー効果が確認されたCLC-5 R704X変異体について, 修復CLC-5全長蛋白の発現確認や細胞内分布様式, およびV-ATPaseとの局在の有無などについて検討する. また, pH感受性蛍光色素であるBCECF-AMを用いた細胞内pH測定系により低浸透圧刺激誘導性V-ATPase活性の測定を行い, 修復CLC-5蛋白でもHEK293細胞膜のV-ATPaseとの間に機能的共役が存在するかを確認する. 修復CLC-5発現HEK293細胞で有意なV-ATPase活性化を認める場合には, エンドゾームpH測定による酸性化障害の定量化を試み, ナンセンス変異型Dent病に対するPTC124の効果を明らかにし, 新規治療薬としての臨床応用の可能性につき考察する. マウス腎単離近位尿細管を用いて低浸透圧誘導性V-ATPase活性を測定する. この低浸透圧誘導性V-ATPase活性化因子として重要と考えられるPKCを介した経路に関連するPKA, PI3K, MAPKなどに特異的な阻害剤を用いた際のV-ATPase活性測定や, V-ATPase/mTORC1活性化に関与するアミノ酸枯渇下での測定を行い, 低浸透圧刺激経路についての既知の知見の確認を行う. また, 各V-ATPaseサブユニットや既知のV-ATPaseに結合する要素に対する遺伝子サイレンシングを行った条件での生理実験とreal-time PCRによるノックダウン効率解析を基に, 低浸透圧誘導性V-ATPase活性化によるメガリン依存性エンドサイトーシス機能変化の背景に存在する刺激伝達経路の全容を明らかにし, 近位尿細管エンドサイトーシス障害の新規治療への応用について検討する.
|