生活習慣病の発症には、発育期(胎生期・乳幼児期)における低栄養が関与する可能性がある。申請者はこれまでに、2型糖尿病の主因には、摂食を調節する消化管ホルモンレベルの変化および食後高血糖による炎症の促進があり、その根底にエピゲノムが関与することを明らかにした。そこで本研究では、発育期低栄養曝露による疾患形質の形成にエピゲノムの変化・蓄積を介した消化管ホルモンの調節異常が関与するかを調べる。 本年度は、胎生期低栄養曝露による消化管機能の脆弱化について検証するため、母乳に含まれ、消化管機能に関与する中鎖脂肪酸に着目し、2つの動物実験系を立ち上げた。 妊娠1日目のICRマウスを2群に分け、AIN93G基準食または低タンパク質食を与えて飼育し、仔を雌雄に分けた。 1.雄性マウスを21日齢で離乳させた後、中鎖脂肪食または長鎖飽和脂肪食を与えて飼育した(現在飼育中)。低タンパク質食を与えた母マウスから生まれた仔マウスは、基準食群と比較して有意に低体重であった。また、胎生期低栄養曝露マウスに長鎖飽和脂肪食を与えると、急激な体重増加がみられたが、中鎖脂肪食を与えたマウスでは体重増加が抑制されるとともに、摂食量が低下した。このことから中鎖脂肪酸は、摂食行動を調節し、胎生期低栄養曝露による出生後の過食および肥満を抑制する可能性があることが示唆された。 2.雌性マウスを18、21、28日離乳群に分けて離乳させ、35日齢に食事負荷試験を行った後、40日齢にて解剖した。胎生期低栄養曝露群では、早期離乳ほど体重が増加し、解剖前5日間の摂食量が多かった。また食餌負荷試験では、21日離乳‐胎生期低栄養曝露群は、基準食群と比較して負荷15分後におけるインスリンの分泌量が低く、血糖値が増大傾向にあった。 これらの結果より、胎生期低栄養曝露および出生後の栄養環境は、摂食やインスリンの分泌等に影響を与えることが示された。
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