研究課題/領域番号 |
16H06769
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
長谷川 久紀 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 医員 (00707028)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 多発性筋炎 / ヒトiPS細胞 / 筋分化 / MHCクラスI |
研究実績の概要 |
多発性筋炎(PM)の筋傷害の主病態は細胞傷害性CD8T細胞が担うと推定されているが、治療には副腎皮質ステロイドやアザチオプリン等、病態に対し非特異的な免疫抑制薬が使用される。そして、既存の治療に副作用を呈したり、治療抵抗性であったりする症例を依然認め、病態の更なる解明と病態に基づいた新規治療薬の開発が喫緊の課題である。 PM患者では、健常人と比較し、筋線維の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI発現が亢進しているので、PM患者のMHCクラスI発現亢進機序を解明することは、PMの病態に基づいた新規治療薬の開発につながると考えられる。PMでは病態に遺伝因子の関与も推定されているので、本研究では、PM患者から疾患特異的ヒトiPS細胞(hiPS細胞)を樹立し、hiPS細胞にドキシサイクリン(Dox)誘導性の筋原性転写因子MyoD発現ユニットを導入後に、DoxによりMyoDを強制発現させて筋細胞へと分化させる。そして、健常人hiPS細胞由来の筋細胞と比較し、MHCクラスI発現の差やその差に寄与する分子を同定することを目的とする。さらに、同定した分子がPMの新規治療標的に成り得るかを、PMマウスモデルのC蛋白誘導性筋炎(CIM)を用いて検証する。 上記の目的に対し、2016年度は複数の健常人/PM患者由来のhiPS細胞の樹立と、樹立したhiPS細胞1クローンへのMyoD発現ユニットの導入による、無数のMyoD-hiPS細胞サブクローンからなるMyoD-hiPS細胞バルクの樹立を行った。また、MyoD-hiPS細胞バルクが筋細胞へと分化する条件を検討し、本研究のように、複数の健常人/PM患者由来のMyoD-hiPS細胞バルクを筋細胞へと分化させてMHCクラスⅠ発現やその差に寄与する分子の比較ができるよう、MyoD強発現hiPS細胞バルクを樹立し、筋細胞へと分化することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
健常人4名とPM患者5名の末梢血中のCD34陽性造血前駆細胞に山中4遺伝子を導入し、各検者のhiPS細胞を3クローンずつ樹立した。次に、hiPS細胞にDox誘導性MyoD発現ユニットを導入し、MyoD-hiPS細胞を樹立した。PMの遺伝的特性を正確に評価するため、pluripro基質を用いてhiPS細胞へのMyoD発現ユニットとネオマイシン耐性遺伝子の導入効率を高め、MyoDのゲノムへの導入箇所やコピー数の影響が平均化される無数のネオマイシン耐性MyoD-hiPS細胞サブクローンから成るバルク細胞を樹立した(健常人3名、PM患者4名)。 バルク細胞は、Dox誘導によるMyoD発現率が約50%と低く、筋細胞へ分化しなかった。そこで、Dox誘導翌日にMyoD強発現分画をFACSで回収し、Doxを含む筋分化条件で培養を継続したところ、回収した細胞は筋細胞へと分化した。この改変した分化条件を複数の検者由来のバルク細胞に対し施行したが、先にFACSによる回収を終えて筋分化基質への播種までに時間を要したMyoD強発現分画の生存率は悪かった。よって、複数のバルク細胞に対しFACSを施行し、筋細胞への分化誘導を継続させて性状を比較することは困難と考えた。 次に、回収したMyoD強発現分画を、lamine 511上でDox非存在下で培養したところ、未分化状態を維持することができた。これらの細胞はDox再誘導によりMyoDを約80%発現し(MyoD強発現hiPS細胞バルク)、筋細胞へ分化した。MyoD強発現hiPS細胞バルクを用いた筋分化は、筋分化誘導時にFACS操作を必要とせず、複数のMyoD-hiPS細胞の比較に最適と考え、健常人2名/PM患者3名分まで樹立した。 健常人hiPS細胞の安定化、そして最適なMyoD-hiPS細胞バルクの筋分化条件の確立に時間を要し、進行が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、もう2~3名の健常人/2名のPM患者hiPS細胞から、MyoD強発現hiPS細胞バルクを樹立する。 その後、健常人/PM患者のMyoD強発現hiPS細胞バルクを筋細胞へと分化させ、MHCクラスI発現の程度をFACSで解析する。PM患者の筋線維でのMHCクラスI発現亢進には、筋内膜に浸潤する抗原特異的CD8T細胞が産生するIFNγの影響も考慮されるので、IFNγ存在下で健常人/PM患者hiPS細胞を筋細胞へと分化させた際のMHCクラスI発現も評価する。 次に、健常人/PM患者hiPS細胞由来の筋細胞で、MHCクラスI発現経路に関わる分子の発現量の違いをWB法やRT-PCRで検証を行う。対象分子は、IFNγ刺激により発現が亢進する①細胞内のペプチド分解に関わるプロテオソームや②細胞小胞体(ER)内へペプチドを取り込むTAPを第一に考えている。他の候補分子は、③ER内でMHCクラスIとペプチドの結合を安定化させるシャペロン分子、④ER内のペプチドをトリミングするERAP、⑤MHCクラスIと複合体を形成できなかったペプチドを細胞質内へ輸送するERAD、⑥細胞膜上のMHCクラスI-ペプチド複合体をユビキチン化してエンドソーム内での分解を促進するMARCHを考えている。 健常人/PM患者hiPS細胞由来の筋細胞で発現量の違いを見いだせた分子のMHCクラスI発現への実際の影響を検証する。PM患者で発現が亢進していた分子はMyoD-hiPS細胞へのsiRNA導入下で、発現が低下していた分子はその分子をMyoD-hiPS細胞で過剰発現させ、筋細胞分化時のMHCクラスI発現が低下するか検証する。 最後に、同定した分子の機能を阻害する薬剤がマウスに投与可能な場合、その薬剤を投与したマウスと非投与マウスに対しCIMを誘導し、筋組織での筋炎の程度やMHCクラスI発現の程度を評価する。
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