多発性筋炎(PM)では、副腎皮質ステロイドやアザチオプリン等、病態に非特異的な治療に対し副作用や治療抵抗性を示す症例も多く、病態に基づいた新規治療薬の開発が重要である。 PM患者の筋線維では、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI発現が健常人より亢進しており、MHCクラスI発現亢進機序の解明は、PMの病態に基づいた新規治療につながると考えられた。そこで、PM患者からヒトiPS細胞(hiPS細胞)を樹立し、ドキシサイクリン誘導性の筋原性転写因子MyoD発現ユニットを導入後(MyoD-hiPS細胞)に筋細胞へと分化させた際のMHCクラスI発現の程度を健常人MyoD-hiPS細胞と比較し、さらに発現の差に寄与する分子の同定を目指した。 昨年度は複数の健常人/PM患者のhiPS細胞クローンにMyoDを導入し、無数のMyoD-hiPS細胞サブクローンからなるMyoD-hiPS細胞バルクの樹立とバルク細胞の筋細胞分化条件を確立し、今年度は、hiPS細胞由来筋細胞のMHCクラスI発現を健常人とPM患者とで比較する予定であった。しかし、別の機会に同一検者の複数のhiPS細胞クローンからそれぞれ樹立したMyoD-hiPS細胞バルクが筋細胞に分化する際のサイトカインを定量したところ、産生量に差を認め、hiPS細胞のクローン間差の影響が考えられた。よって、同一検者のhiPS細胞由来筋細胞のMHCクラスI発現にもクローン間差があると予想され、hiPS細胞を用いた健常人とPM患者との特定の分子発現の比較検証は困難と判断した。 そこで、hiPS細胞由来筋細胞を用いた新たな研究を計画し、hiPS細胞由来筋細胞を抗原特異的に傷害するCD8T細胞の系の樹立と、その系に対しマクロファージ(Mψ)を共培養させてPM患者の筋病変での炎症性細胞浸潤の状態をex vivoで再現してMψや筋細胞自体がCD8T細胞の筋細胞傷害能に与える影響の検証をすべく、本研究に適した抗原特異的CD8T細胞を有する研究室から細胞を入手し、現在その培養・増殖等に着手している。
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