研究課題/領域番号 |
16H06773
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
小野 宏晃 東京医科歯科大学, 疾患バイオリソースセンター, 特任助教 (60466901)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 膵臓癌 / 細胞周期 / 抗がん剤 |
研究実績の概要 |
膵臓癌は本邦において罹患数・死亡数ともに増加している。腫瘍悪性度が高く早期発見が困難であることから、外科手術を中心とした集学的治療を行っても既存の治療法では根治は困難である。膵臓癌の予後改善には、新規分子標的治療薬の開発が取り組むべき喫緊の課題である。 ヒストンのアセチル化が、DNA複製・修復や細胞周期などに影響することは知られているが、膵臓癌におけるヒストンアセチル化と細胞周期との関連性は明らかになっていない。本研究ではヒストンアセチル基転移酵素(HAT; Histone Acetyltransferase)阻害剤と膵臓癌特異的な細胞増殖・細胞周期に関連した分子メカニズムを詳細に解明し、新規治療薬としての可能性を検証することを本研究の主たる目的とし実験を開始した。 遺伝子転写活性に関してヒストンにおけるアセチル化が重要であるとされる。特にヒストンN末端のリジン残基におけるアセチル化はクロマチンの転写活性の指標と考えられている。我々の解析から、ヒストンH3リジン残基のアセチル化(H3K9Ac、H3K18Ac、H3K27Ac)はBxPC3、MIAPaCa2やPSN1といった膵臓癌細胞株において活性化していた。さらにこれらヒストンH3アセチル化は、C646により濃度依存的(10-50μM)に抑制された。C646によるヒストンのアセチル化抑制に伴い膵臓癌細胞株MIAPaCa2やPSN1の細胞増殖が有意に抑制され(p<0.05)、高濃度ではアポトーシスを惹起した。C646によりサイクリンB1やCDC2といった細胞周期関連遺伝子の発現低下を認め、さらにはフローサイトメトリーによる解析ではC646によりG2/M細胞周期停止をきたした。これら解析によりC646はサイクリンB1やCDC2のアセチル化によるエピゲノム発現制御を介してG2/M細胞周期停止を惹起し膵癌細胞の増殖抑制をきたしていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新たにC646投与によるサイクリンB1やCDC2といった細胞周期関連遺伝子のmRNAおよびタンパクレベルでの発現低下を明らかにした。これら実験結果はフローサイトメトリーでのG2/M細胞周期停止の実験結果と合致するものである。新しく得られた知見を含めて第117回日本外科学会において口頭発表した。
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今後の研究の推進方策 |
細胞周期関連遺伝子においてC646により発現低下をきたす遺伝子と、ヒストンアセチル化との直接作用を検証するために、H3リジン残基アセチル化抗体を用いてクロマチン免疫沈降(ChIP)を施行する。サイクリンやCDKなどの細胞周期関連遺伝子の発現低下が明らかになれば、これら遺伝子の発現低下がヒストンのアセチル化との直接の関連性を調べるためにクロマチン免疫沈降(ChIP)を施行する。またC646投与による細胞周期停止が主としてM期へのエントリー阻害によることを証明するために各種実験を追加する予定である。 今後も積極的な学会発表を行い、また年度内の論文作成を目標にしている。
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