ヒストンのアセチル化が、DNA複製・修復や細胞周期などに影響することは知られているが、膵臓癌におけるヒストンアセチル化と細胞周期との関連性は明らかになっていない。本研究ではヒストンアセチル基転移酵素(HAT; Histone Acetyltransferase)阻害剤と膵臓癌特異的な細胞増殖・細胞周期に関連した分子メカニズムを詳細に解明し、新規治療薬としての可能性を検証することを本研究の主たる目的とし実験を開始した。 遺伝子転写活性に関してヒストンにおけるアセチル化が重要であるとされる。特にヒストンN末端のリジン残基におけるアセチル化はクロマチンの転写活性の指標と考えられている。我々の解析から、ヒストンH3リジン残基のアセチル化(H3K9Ac、H3K18Ac、H3K27Ac)はBxPC3、MIAPaCa2やPSN1といった膵臓癌細胞株において活性化していた。さらにこれらヒストンH3アセチル化は、C646により濃度依存的(10-50μM)に抑制された。C646によるヒストンのアセチル化抑制に伴い膵臓癌細胞株MIAPaCa2やPSN1の細胞増殖が有意に抑制され(p<0.05)、高濃度ではアポトーシスを惹起した。C646によりサイクリンB1やCDC2といった細胞周期関連遺伝子の発現低下を認め、さらにはフローサイトメトリーによる解析ではC646によりG2/M細胞周期停止をきたした。これら解析によりC646はサイクリンB1やCDC2のアセチル化によるエピゲノム発現制御を介してG2/M細胞周期停止を惹起し膵癌細胞の増殖抑制をきたしていることを明らかにした。これら実験内容をまとめ論文作成中である。
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