本研究の目的はシスプラチン投与を受ける我が国の頭頸部癌症例において、アルコール代謝関連遺伝子の多型と飲酒量の低マグネシウム血症への寄与を定量することである。 シスプラチンは頭頸部癌の標準治療薬であり、用量制限毒性は腎毒性である。従って腎機能は頭頸部癌における一種の予後規定因子と考えることが出来る。研究代表者は平成28年度には頭頸部癌患者においてマグネシウムを補充することでシスプラチン投与量を有意に多く維持可能であることを報告した。低マグネシウム血症は一般的には飲酒、下痢、低栄養、プロトンポンプ阻害剤などが原因とされているが、これら因子の寄与割合については不明である。一方、飲酒による発癌性は遺伝子多型によって大きく異なることなり、中でもアルコール代謝に関わるALDH2/ADH1遺伝子多型の影響が大きいことが知られている。自験例ではアルコール依存症など大量飲酒例が高度な低マグネシウム血症を来していた。以上からから「低マグネシウム血症もALDH2/ADH1遺伝子多型や飲酒量の影響を受ける。」と仮設を発案するに至った。 本研究の先行研究はないため、必要なサンプルサイズを見積もるためのパイロットスタディを行った。まず主要評価項目である遺伝子多型と飲酒量による低マグネシウム血症発生頻度について調査を行った。報告書記載時点で20例ほど遺伝子検査を行っているが、アウトカム変数である低マグネシウム血症の症例数が80例中1例と平成28年度に報告した自己研究データからの予想より少なくパイロットスタディを終了できていない。あと数例低マグネシウム血症症例が追加されればパイロットスタディを終了し、サンプルサイズを算出して多施設共同研究を行う予定である。現状ではシスプラチン投与量や他治療との併用など対象症例の条件を厳しく設定しているが、対象症例を増やすために条件設定の見直しも検討中である。
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