研究課題/領域番号 |
16H06783
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
細田 和江 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 助教 (80779570)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | イスラエル / アラブ / マイノリティ / ヘブライ語 |
研究実績の概要 |
本研究「イスラエル/パレスチナにおけるアラブ性の探求―包括的な現代文化研究の基盤形成」 は現代中東地域研究において国際的に重要な地域であるイスラエル・パレスチナについて、文学を核とした文化活動の研究を通してこれまで看過されてきたアラブ性という共通の背景を明らかにしようとするものである。今年度はイスラエルのアラブ諸国出身の出自を持つユダヤ人作家のヘブライ語小説(Orly Castel-Bloom, Almog Beharら)を中心に資料の収集と、同資料に含まれるアラビア語の表現について検討した。 その結果、アラビア語の使用が移民一世の作家の作品よりむしろ、移民二世・三世で、自身はヘブライ語を母語としている若手の作家の作品にもアラビア語表現が多く含まれていることが判明した。また、その表現は文学言語として用いられる文語アラビア語ではなく、口語のアラビア語であることもわかった。これは彼らが知るアラビア語が家庭内のみで用いられる個人的なものであったからに他ならない。そのため若手作家のうち、モロッコ系の作家の小説にはモロッコ方言が、エジプト系作家の作品にはエジプト方言やフランス語との混合表現が用いられている。これは第一世代の作家が文語アラビア語を小説の言語として捉えていたのとは異なる。 以上の研究を発展させ、翻訳を出版するべくイスラエルのパレスチナ人作家Anton Shammas氏と会合を行う予定(28年度予定、傷病により繰り越し)であったが、先方の都合によりメールでのやり取りのみとなった。そこで、自身イラク系ユダヤ人であり、アラブ諸国出身の文化研究(映画)の第一人者であるニューヨーク大学のElla Shohat氏と今後の共同研究への足掛かりとして面会を行った。ショハット氏とは以前国際学会での面識があった上、当該研究では世界的に著名な研究者であり、今後の研究のための助言をいただいた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで日本ではあまり扱われていなかったイスラエルの文学作品や映画作品についてある程度網羅的に資料収集を行うことができている。これに関しては来年度も引き続き収集を進める予定である。 また、ヘブライ文学におけるアラビア語の使用やアラブ文化の影響に関しては、「イスラエル・ユダヤ研究」に学術論文としてまとめることができた。 本年度行う予定であったパレスチナ人ヘブライ語作家であり研究者のアントン・シャンマース氏との会合(ロンドン)は、予期しない疾病と治療のため29年度に行うことになっていたが、先方の業務の都合により、メールでのやり取りのみ行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は本年度行った第二世代・第三世代のアラビア語仕様についてより詳しい検討を行う。さらにはその比較の一環としてペルシア語の影響など他の中東地域の言語の表象も確認していく。 また、こうした作品の研究だけではなく、翻訳出版の実現に向けて関係者との交渉を開始したい。具体的には前年度に延期せざるを得なかったアメリカ在住(ミシガン大学)のパレスチナ人ヘブライ語作家であり研究者のアントン・シャンマース氏との会合を予定している。 最終的にはこうした研究をまとめたものを海外学会やシンポジウムで報告し、他のアジア圏(韓国、台湾など)の文学研究者との共同研究の萌芽にしたい。
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