平成29年度には、研究題目「紀伊半島熊野灘沿岸地域諸方言のアクセント研究」に基づき、同地域諸方言についての現地調査・記述的研究を遂行した。 当該年度中、熊野灘沿岸地域の複数の地点で現地調査を実施した。平成29年8月・平成30年2月に三重県北牟婁郡紀北町長島地区で、平成29年8月・平成30年2月に三重県尾鷲市古江地区で、平成29年11月に三重県尾鷲市須賀利地区で、平成29年11月に三重県尾鷲市九鬼地区で、それぞれアクセント体系の解明をめざした現地調査を実施した。現地調査で得たデータにもとづき、長島方言は「式の対立をもたない多型アクセント」、須賀利方言・九鬼方言は「式の対立をもつ多型アクセント」の体系をそれぞれもつと現時点では結論づけられる結果となった。古江方言については、現時点で得られたデータでは非常にアクセントの対立数の少ない体系であり、どのような体系であるかを結論づけるためにはさらなる調査・研究が必要な状況である。 上記平成29年度中に現地調査を実施した4方言に、かねてより申請者が調査・研究を遂行している三重県尾鷲市尾鷲方言(式の対立をもつ多型アクセント)を加えた5方言を束ねる形で、口頭発表「熊野灘沿岸地域諸方言における式の対立」(第13回音韻論フェスタ・於:早稲田大学)を行った。同口頭発表で、熊野灘沿岸地域では距離的な隔たりの決して大きくない中で、式の対立をもつ方言・もたない方言の両者が分布するなど、非常に多様なアクセントをもつ諸方言が観察されることを指摘した。同時に、同地域諸方言アクセントの類型論について、現時点での申請者の最新の見解を提示した。
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