研究課題/領域番号 |
16H06787
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
相原 健作 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (50376894)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 金工 / 彫金 / 鍛金 / 金箔 / 漆 / 文化財 / 復元 / 非破壊 |
研究実績の概要 |
室町時代における目貫の制作に、漆がどのように使用されたのかを明らかにするため、非破壊的手法および歴史的資料の調査という両面から研究を進めた。H28年度は、従来から研究に供してきた南天図目貫を対象として、さらに詳細な調査を実施した。 非破壊的手法に関して、デジタルマイクロスコープを活用して観察したが、金箔を引っ掛けて固定するほぞ穴が確認できなかったことから、機械的な固定ではないことが示された。また、X線CTおよびSEMを用いた解析においても、当時の金属接合で一般的に用いられていたロウ材が検出されなかった。一方、FT-IR解析では、固着された金箔の端部に漆が多く検出された。漆の分布状況を詳細に検討した結果、南天図目貫においては、余剰の漆を使用して金箔を固着したことが明らかになった。 歴史的資料に関して、古の金属工芸作品における漆との関連性を調査した。甲冑金物、建築飾り金物などに漆を施すことが多いことについて、主要素材である鉄は日本の気候において腐食しやすいため防錆処理を必要とすることから、美観を良くすることに加え、高い防錆効果を期待して漆を塗布していたと考えられる。文献および実施調査から、現代における施工方法は、漆を炎で焼き付ける手法が殆どであることが分かった。そこで、「焼き付けによる硬化」、および「常温での硬化」という、二つの異なった手法で硬化させた漆試料を自作し、FT-IRで解析したところ、手法の違いを判断できる差異はなかった。 今後は、金属接合材料としてこれまで知られていなかった漆の役割を実用面から検討するために、接合時の温度、接合面の表面粗さ、漆の接合促進剤である添加物の影響などの接合条件の分析を行う。そして金属工芸作品における漆での接合方法適用の指針を確立する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
室町時代における目貫の制作に、漆がどのように使用されたのかを明らかにするため、非破壊的手法および歴史的資料の調査という両面から研究を進めた結果、おおむね順調に進展している。 特性X線像の解析から、南天図目貫の固着部から漆がはみ出ていることが確認された。FT-IRの分析結果からも余剰な漆が検出されたことから、室町時代には金属同士を漆で固着する手法があったと判断した。 歴史的な金属工芸作品における漆との関連性を調査したところ、鉄製の甲冑金物、建築飾り金物は、漆で仕上げられているものが多いことが分かった。実際、室町時代に制作された鉄製甲冑金物をFT-IRで解析したところ、漆の使用が確認された。その他、江戸期に制作された鉄製の自在置物にも、漆で塗られた作品が見つかった。鉄製品のみ漆が使用されていたことから、漆が持つ光沢などの美観もさることながら、漆で塗布する第一の目的は防錆効果であったと考えられる。 高精細なX線CT観察から、南天の実を表現した黒く見える4個の突起した粒は、金を象嵌していることが分かった。黒く見える表面をEDXで計測したところ、多量の銀と硫黄が検出された。また、FT-IR解析より、漆が検出された。これらの測定結果から、黒く見える粒は、金に漆で銀粒子を固定し、その表面に硫化銀が形成したと判断した。銀粒子の固定手法を推定するため、芸術分野で使用される銀箔、最も細かな銀粉を金の板に漆で固着した自作試料と黒く見える粒をSEM観察により比較検討を行い、象嵌した金粒の表面に銀箔を用いて漆で固着したと結論付けた。
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今後の研究の推進方策 |
室町時代における目貫の制作に、漆がどのように使用されたのかを明らかにするため、非破壊的手法および歴史的資料の調査という両面から研究を進めてきた。今後は再現研究も進めて金属工芸作品における漆での接合方法適用の指針を目指し、成果をまとめる。 H28年度は、漆を使用して金箔を固着したことを明らかにした。古の金属工芸作品と漆との関連性を探ると、鉄で制作された作品に漆が用いられていることを確認した。H29年度は金属接合材料としてこれまで知られていなかった漆の役割を実用面から検討するために、接合時の温度、接合面の表面粗さ、漆の接合促進剤である添加物の影響などの接合条件を検討し復元実験を行う。 接合温度は、常温乾燥と焼き付け漆での乾燥との接合強さ、その仕上がり(光沢・色彩等)を評価する。従来法で知られる小麦、砥の粉を添加物として漆に加えて接合強さ、その仕上がりを評価する。目貫制作で漆を使用する影響を調査・検討し、目貫の制作工程を確立して復元実験を行う。加えて、復元試料の接合部の分析を行い、文化財資料と比較し技法の使用可能性を実証する。 このように非破壊機器を使用して室町時代の目貫の制作技法を探り、その施工法を明らかにする。これらの成果は広く学会(金属学会、保存修復学会等)公表するとともに、文化財の修理、復元研究に生かし、教場での学生指導にも役立てる。
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