これまでの研究で、室町時代に制作された目貫に漆が固着剤として使用されていることを明らかにした。H29年度は、これまで金属接合材料として知られていなかった漆の用途を歴史的資料の調査を行うと共に、金属工芸作品における漆での接合方法適用の指針を図った。歴史的資料調査より、飛鳥時代に制作された金銅仏である法隆寺釈迦三尊像本尊の頭部に銅製の螺髪を取り付ける手法は、機械的に差し込む機構がないこと、当時の金属接合方法であるロウ付けの痕跡がないこと、螺髪の欠損部の破断面観察から、漆を固着剤として使用したと結論付けた。この事例から、古代に金属材料の接合材料として漆が使用されていたことを確認した。 金属材料における漆の固着手法は、準備として金属材料の接着面に漆で焼き付け処理をすること、漆に小麦粉を添加材として加えた麦漆を用いることが通例とされる。しかし、その手法を科学的に評価する資料は確認出来なかった。よって、金属材料における漆での接合方法に焼き付け漆と麦漆の有効性を、破壊試験である引張せん断接着強さ試験(JISK6850)とT型はく離試験(JISK6854-3)で評価を行った。その結果、金属材料を麦漆で固着した試料は、現在市販されている一液性接着材で固着した試料と同等の接着強度があった。そして、文化財資料と同じく、金箔を銅合金に麦漆で固着する復元実験を行った。その試料は仕上がりも美観も良く金属材料を漆で固着出来ることを実証した。
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