本研究はアモルファス酸化物半導体(AOS)を母体とした蛍光体薄膜を開発し、それを用いた新規発光素子の創造を目的とした。先行研究では、従来のAOSであるIGZOを母体とし、希土類元素を添加することで、室温作製の可能な発光薄膜ができることがわかっていた。しかし、実用に向けて発光効率の面で改善が必要とされていたため、本研究の平成28年度の目的として「様々なAOS の母体と 発光中心を探索し、それらの発光特性および物性を観察する。」また「AOS 母体および発光中心のエネルギー準位と発光特性との相関を明らかにする。」と計画した。 平成28年度は、上述のようにAOS母体と発光中心の探索を主に行うことから、IGZOより優れた母体の開発に成功した。アモルファス酸化ガリウム(a-GO)は報告者が、近年、半導体化に成功した材料であり、蛍光体薄膜の母体として非常に有望であることを見出した。また、a-GOを用いた蛍光体薄膜はIGZOより内部量子効率が5倍以上改善されており、今後、発光素子としての応用が大きく期待される。一方で、報告者はa-GOの電子構造を解析することから、優れた発光効率の機構を明らかにすることができた。a-GOは4.0eVと非常に大きなバンドギャップを持っており、またドナー準位が深いことから、自由キャリア濃度が小さいことが明らかにされた。従って、自由キャリアによる非発光再結合が抑制されていることがわかった。その他、共鳴光電子分光を用いた希土類元素の4f準位の位置を明確にすることができており、今後はこのエネルギー準位と発光効率の関連性を検討するつもりでいる。
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