研究課題/領域番号 |
16H06800
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
松村 尚子 一橋大学, 大学院法学研究科, 特任助教 (20778500)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | サーベイ実験 / 国際裁判 / 判決履行 / 世論 / 司法的紛争処理 / 貿易紛争 / 世界貿易機関 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、オンラインサーベイ実験を用いて、「国際裁判の判決履行を敗訴国の国民が支持する条件」を明らかにすることである。平成28年度の成果は、次の3点に集約される。
第一に、国際裁判と世論についての先行研究を参考に理論的検討を行い、複数の仮説を導き出し、それらをテストするための実験デザインを考えた。併せて、実験参加者を集める手段として本研究が採用するクラウドソーシングサービスを提供する会社と打ち合わせを重ね、ロジスティクスを整えた。サーベイの実施方法や設問内容については、一橋大学の「研究倫理審査委員会」の審査も受けた。 第二に、平成28年12月に、日本人を対象として貿易紛争の国際裁判を事例に、1回目のサーベイ実験(n=2000人、期間:2週間)を行った。得られた回答は統計的に処理し、仮説検証を行った。検証の結果、理論的な予測通り、国民が政府による国際協定違反の是正・改善を支持するか否かは、「国際協定の違反」という単なる事実(あるいは他国からの非難)には左右されず、「裁判機関による断定・判決」によって影響を受けることが示された。一方で、勝訴国が過去に自国と類似の国際協定違反を行ったことがある場合、国際裁判で敗訴した場合でも、国民は当該違反の是正・改善を支持しないことが確認された。これは、国際裁判の判決が世論に対して常に影響を及ぼすわけではないことを示しており、重要な発見である。 第三に、1回目のサーベイ実験の結果を論文としてまとめ、平成29年2月にアメリカで開催されたInternational Studies Association(ISA)年次大会で報告を行った。さらに、この学会報告で指摘された点を踏まえて実験デザインに修正を加え、平成29年3月に2回目のサーベイ実験を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、平成28年度中に貿易と領土の2分野に関する国際裁判について、日本人を対象にサーベイ実験を行う予定であった。しかし、サーベイ実験の参加者を集める方法として本研究が採用するクラウドソーシングサービスの利用に関して、経理上の手続きに想定外の時間を要したため、平成28年度中に実施できたのは貿易紛争についてのサーベイ実験のみとなった。よって、領土紛争を対象とする実験について、若干の遅れがみられる。しかしながら、経理上の問題は解決されたため、平成29年度は研究計画通りに実験を遂行できる見込みである。 サーベイ実験自体については、A.国際裁判の判決、B.裁判の相手国の属性、C.紛争となっているイシュウの性格、という3つの要素と世論の判決履行への支持との関係について、理論的な検討を行った上で、実験の実施、仮説の検証、そして学会報告というところまで進めることが出来た。この結果、平成28年度中に、実験デザインの吟味や平成29年度に追加的に調査すべき仮説なども準備することが出来た。したがって、この点については予定以上の進捗が見られたと言える。
以上を総合して、「(2)おおむね順調に進展している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの到達度で述べた点に触れつつ、以下、今後の研究推進方策等について述べる。
第一に、平成29年度は、平成28年度に行った日本人を対象とする貿易紛争に関するサーベイ実験を踏まえ、同様の内容の実験を、アメリカ人を対象として実施する。実験後には、貿易紛争に関する国際裁判の判決が世論に与える影響について、日本人と米国人を比較し、両者の間に差が見られるかなどの検討を行う。 第二に、貿易紛争以外の紛争として、領土紛争の国際裁判についてのサーベイ実験も行う。これは、日本人を対象とする実験となる。貿易紛争と領土紛争の国際裁判を比較することにより、紛争領域の違いによって、国際裁判が世論に与える影響に差が出るのかを検討する。 第三に、以上のサーベイ実験の結果を、複数の国際学会で報告する予定である。具体的には、ISA国際学会(6月)、Pacific International Politics Conference(7月)、American Political Science Association年次大会(9月)(いずれも報告許可取得済み)である。学会後は、報告した論文に修正を加え、査読付きの英文学術誌に投稿することに力を注ぐ。
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