本研究の目的は、国際裁判(国際機関による裁判)の判決が敗訴国の世論に与える影響を、サーベイ実験を用いて実証することである。昨年度に引き続き、貿易分野を対象として、「国際裁判の判決によって、国際協定を遵守することに対する国民の支持は高まるのか」という問いについて分析を進めた。平成29年度の成果は主に次の2点に集約される。 第一に、昨年度実施した日本人を対象とした実験シナリオを用いて、アメリカ人を被験者とする実験を行った。その結果、理論的な予測に反して、自国の貿易政策について国際機関が違法性を指摘した場合でも、違反の是正に対するアメリカ人の支持は増えないことが明らかになった。日本人の反応とは異なるものであり、多国間比較の重要性を示す発見である。この結果は、海外の学会で報告し、得られた指摘をもとに論文に加筆修正を行い、英文学術誌に投稿した。 第二に、判決の効果をより詳細に分析するため、裁判の対象に着目して2つの実験を行った。具体的には、(1)裁判で対象となる物品が、国民の生活に直結している物品(食品)であるか否か、(2)裁判の対象が自国であるか他国であるか、という点に着目した。実験の結果、(1)については、食品の安全基準という非関税措置に関しては、工業製品に対する高関税措置という違反に比べて、判決の効果が弱まることを確認した。(2)については、同じ貿易協定の違反であっても、他国による違反である場合に、是正への支持がより高いことが分かった。裁判の対象によって、判決の効果が一定ではないことが確認されたといえる。これらの結果は、国内外の学会やワークショップで報告し、現在、英文学術誌への投稿の準備を進めている。
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